海洋開発分科会(第71回) 議事録

1.日時

令和6年3月25日(月曜日)10時00分~12時00分

2.場所

オンライン会議

3.議題

  1. 令和5年度の海洋開発分科会における評価について
  2. 今後の深海探査システムの在り方について
  3. 次期北極域研究プロジェクトについて
  4. その他

4.出席者

委員

藤井輝夫分科会長、日野分科会長代理、榎本委員、川合委員、河野健委員、川辺委員、後藤委員、阪口委員、谷委員、中川委員、兵藤委員、廣川委員、松本委員、見延委員、吉田委員

文部科学省

千原研究開発局長、永井大臣官房審議官、山之内海洋地球課長、伊藤海洋地球課課長補佐 ほか

5.議事録

【藤井(輝)分科会長】 ただいまより科学技術・学術審議会第71回開発分科会を開催いたしたいと思います。御多用中、皆様には御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。
 まずは、事務局から参加者・定足数の確認、配付資料の確認等お願いします。
【事務局】 本日は、河野真理子委員、藤井徹生委員、前川美湖委員の3名から御欠席との御連絡をいただいておりますが、そのほかの委員の皆様には御出席をいただいておりますので、科学技術・学術審議会令の第8条に定める定足数の過半数を満たしておりますことを御報告いたします。
 続きまして、配付資料の確認をさせていただきます。今、投影しております議事次第にございますように、資料1-1から参考資料7までを事前にお送りさせていただいております。御不明な点、不備等がございましたら、事務局までお知らせいただければと思います。
【藤井(輝)分科会長】 よろしいでしょうか。それでは、本日の議事に入らせていただきたいと思います。
 お手元、議事次第のとおりですが、3つの議題を用意しております。1番と2番が審議案件で、3番が報告案件となっております。
 まずは議題1ですが、「令和5年度海洋開発分科会における評価について」ということで、まず、「海洋情報把握技術開発」の事後評価について審議をさせていただきます。
 本日は、プログラムディレクターである花輪公雄先生と、外部評価委員会の主査である小池勲夫先生にお越しをいただいております。このお二方から事業概要、それから事後評価の結果案について御説明をまずいただきまして、その後、審議を行いたいと思います。事後評価案については、前回の分科会で決定した評価の実施についてということで、これに沿って作成をしていただいております。
 審議に入る前に、兵藤委員、河野健委員におかれましては、参考資料1の留意事項の(1)利益相反の事由に該当しますので、評価には加わらないようにお願いしたいと思いますが、そのほか利益相反に該当する方はいらっしゃらないと思いますけれども、そのような理解でよろしいでしょうか。もし気になる方がいらっしゃいましたら、お知らせいただければと思いますが、よろしいですか。
 よろしければ、では兵藤委員、河野健委員におかれましては、この審議には参画しないということですが、途中、 質疑の過程で、例えば事実関係などについて御発言いただくということはあるかと思いますので、そこは特に問題ございませんので、よろしくお願いいたします。
 それでは、早速御説明いただきたいと思います。花輪PDと小池主査、よろしくお願いいたします。
【花輪PD】 御紹介ありがとうございました。プログラムディレクターを務めました山形大学の花輪でございます。私からプログラムの概要をお話しします。
 今、御覧になっているページですけれども、このプログラムは平成30年度から令和4年度までの5年間行われております。中間評価は令和2年、事後評価は今年令和6年に行われました。
 課題の概要と目的ですけれども、御存じのように、我が国では平成19年に設定された海洋基本法の下で、平成20年から5年ごとに海洋基本計画が策定されております。第3期海洋基本計画は平成30年に策定されました。この中で、海洋の状況を効率よく迅速に把握する体制を確立することの重要性がうたわれました。海洋状況把握と呼ばれています。英語ではMaritime Domain Awarenessですので、頭文字をとってMDAとも呼ばれています。このMDAの基礎となるのは、海洋の物理的・化学的・生物学的な情報、すなわち海洋の状態の情報です。この海洋の情報においても、効率的に観測・計測する技術の開発が必要であると認識されています。
 この海洋情報の中でも、国際的には、海洋酸性化の進行の問題、生物多様性の劣化の問題、海洋プラスチックごみの急増の問題を的確に把握すること、が喫緊の重要な課題であると、SDGs等においても、またG7サミット等の議論の中でも強く認識されております。
 このため、大学等が有する高度な技術や知見を利用し、海洋環境等の海洋情報を効率的かつ高精度に把握する観測・計測技術を研究開発するとともに、その成果を民間業者に技術移転し、海洋のSociety5.0の実現に貢献すること、これが本プログラムの目的となります。
 本プログラムでは、海洋情報の中でも、さきに述べました海洋酸性化、生物多様性、海洋プラスチックごみに関する観測・計測の技術開発、という3つの分野を設定し、公募いたしました。この公募に対して、各分野に複数の提案がありましたが、その中で、ここに記載のとおり、海洋酸性化の把握では、pHとアルカリ度を自律型ブイ、アルゴフロートですけれども、これで自動計測する技術の開発を行う東京大学大学院理学系研究科の茅根先生の課題、生物多様性劣化の問題では、環境DNAの解析から周辺に存在する生物を自動的に把握する技術の開発を行う東京大学大気海洋研究所の濵﨑先生の課題、海洋プラスチックごみの把握では、海洋マイクロプラスチックを分光学的な手法で自動的に計測する技術の開発を行う海洋研究開発機構の藤倉先生の課題がそれぞれ採択されております。
 私からの説明は以上です。ここからの説明は、本プログラムの外部評価委員会の主査を務められました小池勲夫先生にお願いします。
【小池主査】 主査を務めました小池です。
 ここは、各課題における当初の目標・計画に対する成果内容が書いてあります。今、花輪PDより御説明ありました1から3までの課題の成果内容です。
 1つ目のBCG-Argo搭載自動連続炭酸計測システムの開発に関しては、成果内容としますと、海水・高圧条件でもpH・アルカリ度を測定可能な次世代のISFETセンサーの開発に成功いたしました。本事業終了後も複数の外部資金で、この課題に関連して採択されています。また、このセンサーは非常に小さなセンサーですけれども、医療分野や半導体方面の精密分野への応用のための共同研究も推進されています。
 2つ目の海洋生物遺伝情報の自動取得に向けた基盤技術の開発と実用化ですけれども、成果内容としますと、核酸の回収・抽出の独自手法を開発して、基本的なプロトコルとして学術誌に発表されたこと、それから、ある特定の遺伝子を検出する卓上型の自動分析装置が開発されたこと、それから、環境DNAのデータ解析技術を新しく開発して、公開データベースにデータを提供したと。さらに、社会実装に向けては、これはSmall Business Innovation Researchという制度がありますけれども、ベンチャー企業とも連携して、さらに成果を上げているということです。
 3つ目のハイパースペクトラムカメラによるマイクロプラスチック自動分析手法の開発に関しては、マイクロプラスチックの材質・形状・サイズ・個数を連続的に自動分析できるシステムが開発されたと。それから、民間企業への技術移転がなされており、受注製造可能な状態になっているということ、また、小型化、低価格化を目指して、事業終了後も企業や他機関との共同研究も実施されており、今後のさらなる進展が期待される、と評価しています。
 次は、評価内容、各課題あるいは事業全体の達成状況です。総合評価として、海洋情報把握における研究開発として世界的にニーズが高い研究開発内容になっています。それで、社会実装につながる技術開発が進展し、事業全体として波及効果が大きな技術開発がなされたことが評価されます。
 また、海洋情報把握の基礎となる海洋情報の収集・取得に資する多くの科学的成果が創出されたことに加えて、一部の課題では、社会実装に向けた事業化の明確な道筋も示されました。さらに、本事業では3つの発想や推進体制が大きく異なっているわけですけれども、研究開発機関を通じてPDが責任を持って一貫してプログラム運営を統括し、研究推進委員会等を通じて計画の点検や今後の研究計画の見直しなどの助言を確実に実施しており、本事業の実施体制は十分有効に機能しました。加えて、この期間中、長いこと新型コロナウイルスの影響下にあったわけですけれども、各課題において適切な対応が行われて、事業全体としての当初の目標はおおむね達成できました。
 以上により、費用構造の適切性や費用対効果、波及効果は想定以上であったと高く評価されます。
 次は、各課題及び事業全体の達成状況です。必要性の観点ですけれども、この事業は海洋酸性化、生物多様性の減少、マイクロプラスチックによる海洋汚染といった、第3期海洋基本計画等の国の施策等において、国際的にも課題となっている地球環境問題の解決に資するものであったということです。
 それぞれの課題について見ますと、アルゴフロートに関しては、G7の大臣会合でも取り上げられた課題であります。また、環境DNAに関しては、生物多様性の維持にも非常に有効な方法であることから、環境省が進める海洋保護区「30by30」でも活用されるなど、注目を集めております。さらに、マイクロプラスチックに関しては、御存じのように、早急に対処が必要な海洋汚染の課題として、国際的にも広く認知されています。
 以上から、本事業で設定された課題は重要度・注目度が年々高まっており、国や社会のニーズを先取りした先進的な事業だったと言うことができます。
 有効性の観点については、「海洋情報を収集・取得するための自動計測・分析機器の開発、自動観測・分析の実現に必要な技術開発」に対して、事業全体として見ますと10件のシステムが開発されました。
 また、開発過程で多くの科学的知見がつくられ、全ての課題において開発されたシステムの実海域での試験が実施されました。また、ベンチャー企業や民間企業への技術移転など、5年間で社会実装に向けた道筋が立てられるところまで達成しました。
 さらに、科学的な知見を高めながら、同時に、社会実装に向けた技術開発を行うという極めて顕著な成果が得られています。そして、本事業の有効性は高いと評価されました。
 次は効率性の観点です。予算配分を見直すなど、事業全体として適切なマネジメントが図られ、また、課題ごとに研究推進委員会を定期的に開催し、外部の専門家の意見を適時適切に反映しながら、目標の達成が図られました。PDがこの委員会に出席し、事業の適切な進捗管理に努めた結果、効率性の高い事業運営がなされ、各課題に対してPDによる的確かつ丁寧な事業進捗管理と明確な方向性の提示が行われたことにより、プログラム全体としての当初の目標をおおむね達成することができたと評価できます。
 さらに、本事業では、科学的知見の創出等にならず、事業期間全体社会実装に向けた道筋が立てられるところまで到達しており、費用構造の適切性や費用対効果が想定以上だったと認められ、効率性は高いと評価されました。
 最後に、今後の展望です。一般に海洋の現場での利用を目的とした研究開発には時間を要しますが、本事業では、開発した技術の実用化及び民間企業への技術移転という目的がうまく機能し、本事業の開始前に出ていた一定程度の成果をうまく生かすことができたと言えます。これらは技術開発の段階に応じた事業目的とのマッチングの重要性を示しているものであり、本事業の運営で得られた知見を今後の事業の設計にも生かしていくことが重要であると考えます。
 一方、我が国で使用されている海洋の観測・計測機器の大部分は海外製品であり、国内では対応する企業がほとんどないため、大学等における技術開発、製品化までは到達しづらい状態が続いていると考えられます。研究開発の効果を最大化し、社会実装にまで進めるには、本事業での取組に加えて、研究チームに民間企業を加えるのみならず、起業の専門家を加えるなど、さらなる検討も必要と考えます。
 加えまして、我が国の海洋産業の活性化や社会実装を考えた場合、国内の研究機関・企業のみならず、経済安全保障に留意しつつ海外の企業からの申請や連携も呼びかけることも併せて検討することが有効ではないかと考えます。
最後に、観測・計測技術の開発において、「世界標準」や「社会を見据えた開発」という観点は重要だと考えています。まだ出口に達していないプログラムもありますけれども、次の研究費の獲得もなされており、さらなる進捗が期待されます。
 以上です。
【藤井(輝)分科会長】 御説明ありがとうございました。それでは、委員の皆さんから、ただいまの御説明につきまして御意見あるいは御質問がございましたらお願いいたします。いかがでございましょうか。
 それでは、阪口委員お願いいたします。
【阪口委員】 笹川平和財団の阪口です。御説明、本当にありがとうございました。また、すばらしい数々の成果が出ておられるということで、大変頼もしく拝聴させていただきました。
 最後のページで下から2つ目と一番下の行でも述べられておりましたが、これは結構大事なことだと思います。というのは、技術移転をしても、全く海外に売れないものだと、マーケットが日本国内だけだと小さいわけで、それだけ企業の努力が報われないことが海洋に関する技術開発ではよくある話です。
 例えばですが、マイクロプラスチックの自動計測技術は、世界中の大学や研究機関で非常に活発に進められておりますが、今回のハイパースペクトルカメラを使った技術は、計測にかかる時間とか量とか精度という観点で、ドイツやイタリアがかなり精力的にこの研究開発を進めていますが、どれぐらいの位置にありそうなのかという、そういう検討結果というか、比較というか、そういうものはあったのか、なかったのか。もしあったとすれば、どれぐらいのレベルの物ができたのかということについて、もし情報がございましたら教えていただければ幸いです。
 以上です。
【藤井(輝)分科会長】 この点いかがでしょうか。
【小池主査】 では、私からお答えさせていただきます。
 評価のときには、海外の今言われたような自動化の進展との比較の議論は出ませんでした。ただ、私はある程度これに関する情報は持っておりまして、今回開発されたものは、計測器がハイパースペクトラムを使うということで、ほかのところであまりやられていない方法です。ただ、実際に開発されたのは、マイクロプラスチックで大体100ミクロン以上のサイズの計測器ですけれども、それを船で取っている海水をそのまま流して自動的に計測できるという方法としては、私は非常に優れた方法ではないかと考えています。
 ただ、マイクロプラスチックの計測というのは、なかなか民間がやることにはならない。やるとすれば、ある程度公的な機関がやることになると思うので、ここで開発された、船で採水された表面海水を使ってセットして自動的に測るものに関しては、ある程度公的なお金を使って、いろいろな、例えばシップオブオポチュニティーと言われている民間船の定期航路を使った観測網を広げていくことで、さらに実用化に向かうのではないかと考えています。
【花輪PD】 プログラムディレクターの花輪です。私からもコメントしたいと思います。
 このシステムは非常にユニークなものだと思っております。今、主査からお話ありましたように、航行している船舶は常時海水を取っていますけれども、そこのシステムにつなげることで、連続して航路に沿ったマイクロプラスチックの分布を測ることができるという、非常にユニークなものだと思っています。
 また、スペクトルを分光するところを除きますと、収集するといいますか、プラスチックを採集するようなシステムにもできまして、そういう意味でも非常にユニークなシステムになったと判断しております。
 以上です。
【藤井(輝)分科会長】 阪口委員、よろしいでしょうか。それなりに国際的な競争力が期待できそうだという理解で。
【阪口委員】 だとすると、一、二回はきちんとした比較を行って、海外も今、民間企業がこのような、手法は少し違うところもあるんですけれども、紫外線を使ったり、いろいろな方法でやっていますので、ぜひ一度だけでもいいので比較をして、それを売りにして海外に展開することを民間企業に促すことが非常に重要かと思います。
 当然、我が国の動力船にこれをつけて、当然採水はずっとしているわけですから、今おっしゃられたとおりのことができると思うんですけれども、海外展開ができるかできないかというのは大きな分岐点になると思いますので、ぜひ一度、そういうものをまた売りに出すためにも、比較をされるとよいと思います。ありがとうございました。
【花輪PD】 ありがとうございました。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。そのほか、よろしいでしょうか。
 川辺委員お願いします。
【川辺委員】 東京海洋大学の川辺でございます。御説明ありがとうございました。大変すばらしい成果を上げられたことは、高い評価を受けられたことからもうかがわれました。
 今のお話で海外展開のことが出てきましたが、その前段階の社会実装についてお伺いします。スライドの6ページで、有効性の2番目に、5年間で社会実装に向けた道筋を立てられるところまで到達しているとあります。すばらしいと思いながら伺いましたが、その一方で、8ページ2ポツのところで、国内で対応する企業がほとんどないとあります。これは、出口を求めているのに受け手がいない状況なのかなと思いながら伺いました。国内で研究成果を製品化することについての見通しにつきまして、教えていただければと思います。よろしくお願いいたします。
【花輪PD】 私からお答えします。
 実はこれは3つの課題があります。3つの課題で置かれている状況が違いまして、例えば第1の課題であるpHあるいはアルカリ度を測るところ、これは非常に良いセンサーをこのグループは開発いたしました。開発して、このグループが各国内企業にいろいろ打診しているのですけれども、既にお話が出ていますように、国内の市場そのものが非常に小さいということで、企業のほうがある意味少し腰砕けになっているようなところはあるんです。そのために、必ずしも海洋だけではなくて、例えば人体でpHを計測する等々、重要性が増していますけれども、そちらの方向でニーズがないかというのを今、探している途中です。
 2つ目の環境DNAのところ、ここもモジュール3つを組み合わせて最後まで計測できるところまで行っているのですが、そこの採水の部分、水を採って凝縮して核酸を抽出するところ、ここのニーズは非常にあることが分かりまして、なおかつ、この課題の中で割合早い時期に完成しましたので、すぐ民間でも導入いたしまして、販売できるところまで、数十万から100万円ぐらいまで、そこの最終のところはできる等々の成果が出ています。
最後の課題においても、先ほど言いました分光するところを外しても、これはマイクロプラスチックを採取することでは既に非常に確立したもので、それがなおかつ民間とも協力すればいけるところまであります。
 書きぶりとして複雑でしたけれども、システム全体としてはもう少し完成度を高める必要があるところもありますけれども、このプログラムで開発されたモジュールといいますか、部品といいましょうか、そういったところはすぐにでも社会実装できるところまで来ていると私自身は判断しています。
 以上です。
【川辺委員】 ありがとうございました。国内でも大丈夫ということで理解いたしました。よろしいでしょうか。
【花輪PD】 ありがとうございます。
【川辺委員】 ありがとうございます。
【小池主査】 主査の小池ですけれども、一言よろしいですか。
【藤井(輝)分科会長】 どうぞ。
【小池主査】 8ページ目の今後の展望のところで、日本の今の状況として、なかなか製品化まで持っていくのが難しいというのを、特に海洋の分野がそういう状態であるというのは、今回の3つの課題も、それぞれもう10年ぐらい、例えばJSTとか環境省とか、幾つかの研究費を取って、それで積み重ねて、だんだん技術的に進歩して製品化に近づいているという段階のものです。
 ですから、そのようにうまくいろいろな形の研究費がそれぞれのステージごとに対応していくことで、日本としても、しっかりちゃんとした技術開発を製品化まで進めることが出来るのではないかということも含めて、このように展望のところでは書かせていただきました。
 以上です。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございました。では、榎本委員お願いします。
【榎本委員】 御報告ありがとうございました。これまでの御質問にもあったのですけれども、最初は世界標準ということで世界での位置づけ、今は2番目のところで、国内でのつながりについての検討を行われているということですけれども、途中の報告の中でも、科学的成果を創出できていて、あと実際の海での調査もできていてといったところで、最終的に使う研究グループとか研究者での反応といったものは何かあるのでしょうか。世界、国内、あと、それを使う研究側からの期待などを、もし感触を得られているようでしたらお願いいたします。
【花輪PD】 御質問ありがとうございます。これも花輪からお答えさせていただきます。
 例として2番目の環境DNAの課題を取り上げたいと思います。ここのグループは、基礎技術の開発、それから具体的にものづくりとして分析装置の開発、最後にデータベースの充実、この3つのサブグループから成っています。環境DNA、特に魚等々の同定のためには、各種魚の持っているDNAがどういう配列であるかをあらかじめ調べておき、データベース化して、そこを参照して、具体的にどの魚がここにいたと。そういったことをあらかじめ持っておくことが必要ですが、ここでは世界最先端のMiFish法に基づく環境DNAデータ云々とあります。ここはまさに我が国が開発したところです。
 魚を同定するには方法が幾つかあるのですけれども、現在最も世界の中で使われている方法でありまして、このためのデータベースもかなり、この課題の中で目標を立てて、現在分かっている魚類の70%ぐらいのDNAはここに登録しましょうということで目標にして頑張っていただいたのですが、これもクリアしていまして、さらには魚だけではなくてプランクトンのデータベースも作成すると。これは世界的にも今、SCORのワーキンググループで、それが大事だということで進められているのですけれども、この課題からのインプットはかなりの量がありまして、世界中の研究者が非常に注目しているということがあります。ここに参加している先生がレビュー論文を書いているのですけれども、これが2年間ぐらいで数百回引用されているということで、研究者に対する大きなインパクトがあったのではないかなと思います。
 同じようなことが1番目の課題でも3番目の課題でもありまして、3番目の課題では、分光スペクトルの形でプラスチックの種類を同定するのですけれども、それも8種類か9種類ぐらいまでできることが分かりまして、現在使われているプラスチックの98%ぐらいは同定できるのではないかと、そんな成果も得ております。2番目の課題でお話ししましたけれども、多くの研究者も注目している課題であったということです。
 以上です。
【榎本委員】 よく分かりました。ありがとうございました。大変よくケアされていると思います。
【藤井(輝)分科会長】 そろそろ時間なので、川合委員、手短にお願いします。
【川合委員】 ありがとうございます。最初のpH・アルカリ度の課題でお聞きしたいですけれども、このプロジェクトは出口が社会実装ということで、タイトルにあるBGC-Argoへの搭載の可能性について、どのぐらい進められていたのか、その辺をお聞かせいただけないでしょうか。
【花輪PD】 花輪からお答えします。
 実は具体的にBGC-Argoに今回開発された装置に搭載して実際の海洋で実験できたかというと、できていません。その一歩手前ぐらいです。この課題は、沖縄で実際に試験をやろうとしていたのですけれども、新型コロナウイルスの影響で、ほとんど実海域での実験は最終年度でしか行えないということで、実際のアルゴフロートにつけた実験は実現できなかったというのが正直なところです。
 しかしスペック的には、実際に搭載してアルゴフロートが運用できるかという観点からは、運用できるぐらいの重さ、また体積にしたということです。
 説明は以上です。
【川合委員】 ありがとうございました。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。私からも一言二言申し上げたいですが、まずは審議ということにさせていただきたいと思います。
 まず、資料1-2の資料で、概要はこのスライドに書いていただいているのですが、この形で評価ということで仕上げてよろしいかということでございますけれども、いかがでございましょうか。
 今日御質問出た部分についても、ほとんどのものは、そういう意味では次のステップに向けての御意見だったとも思いますし、最後の川合委員の分も、そういう意味では成果の御確認をいただいたということだと思いますので、特段御修正の御意見はないということでしたら、この形で分科会としての決定にさせていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。では、この形で決めさせていただきます。
 私からも一言二言申し上げたいと思います。一つは、本当に世界標準にしていくのであれば、課題の側に検討してもらうというよりは、国として、あるいは政府の側としても、この次のステップにつながるような何らかの施策を考えたほうがいいのではないかなと思います。次のステップにつながるようなサポートなりを考え得るのではないかと。国内市場だとつらいという話がありましたけれども、今はスタートアップを考えれば、グローバルで見て、どこかでともかくニーズが花開けばいいということもあるわけです。
 それからもう一つは、世界標準としたいとすれば、この3つのテーマそろって海洋のセンシングについてやっていますので、これを世界にアピールするような何か機会を設けるようなアクションがあってもいいのかなとも思います。何らかの国際的な会議なりを開催するなどして、アピールする機会を設けるとか、何かそういったことを考えてもいいのかなと思います。いずれにしても、それはこの評価の次のステップでございまして、そういう意味では範囲を超えた発言かもしれませんけれども、総じて言えば、非常によい成果が得られたということだったかと思います。
 では、こういったことで、評価としてはこの形で決めさせていただきたいと思いますが、よろしいですか。
(「異議なし」の声あり)
【藤井(輝)分科会長】 では、議題1は以上でおしまいにしたいと思います。
 花輪先生、小池先生、どうもありがとうございました。
【花輪PD】 ありがとうございました。
【小池主査】 ありがとうございました。
【藤井(輝)分科会長】 それでは、次の議題に入らせていただきます。議題2です。
 「今後の深海探査システムの在り方について」ということで、本日は、これは中間報告ということですので、深海システム委員会の主査でもある松本委員からまずは検討状況を御説明お願いしたいと思います。
 では、松本主査からお願いいたします。
【松本委員】 松本です。本日は、これまでの委員会の議論について取りまとめました中間取りまとめについて御説明させていただきます。
 まず、資料2-1を御覧ください。
 初めに、本委員会が設置された背景についてですが、EEZの約50%が水深4,000メートル以深である我が国において、深海探査は、科学的知見の充実の基盤であるとともに、我が国の様々な社会課題、こちらは防災・減災、それから地球環境変動等にも密接に関わっておりまして、総合的な海洋の安全保障上も極めて重要でございます。しかしながら、ROVやAUVの大深度化・高性能化の遅れ、それから日本で最深度まで潜航できるHOVの老朽化など、喫緊の課題を抱えておりまして、早急に対応が必要であるということでございます。
 これらの課題を踏まえまして、我が国の深海域におけます調査能力の維持・強化をするために、HOV・ROV・AUVを中心とした深海探査システムの研究開発及び整備に早急に取り組む必要がございます。本委員会では、深海探査システムを取り巻く現状と課題、それからこれらを踏まえました今後の我が国の深海探査システムの在り方と推進方策について検討するために、これまで委員会を4回開催いたしまして、議論を重ねてまいりました。委員会のメンバーは、資料の右側にございますとおりです。
 具体的には、資料にございますとおり、マル1番、深海探査システムに求められる能力について、深海探査システムのユーザーである各分野の専門家から、マル2番、深海探査システムを実現するための研究開発につきまして、産業界及びアカデミアの専門家から、それからマル3番、その他、運用方法や人材育成、アウトリーチ活動について、メディア関係者から、それぞれヒアリングを実施し、議論を行いました。ヒアリングの実施概要は、2ページ目のとおりでございます。
 本日は、これまでの委員会の議論について取りまとめた中間取りまとめについて御説明させていただきます。概要につきましては、事務局から御説明をお願いしたいと思います。
【山之内海洋地球課長】 資料2-2を用いて中間取りまとめの概要を説明させていただきます。
 本文は大きく2章に分かれておりまして、ローマ数字1が現状と課題、ローマ数字2が現状課題を踏まえた今後の方向性・提言という形になってございます。
 まず、ローマ数字1ポツ、我が国における深海探査システムの現状と課題でございます。上のほうに書いてございますが、先ほど松本主査からもお話しいただきましたが、深海探査は、科学的基盤の強化、総合的な海洋の安全保障、防災・減災、ここには書いていないですが、MDA、そういった観点からも重要だということでございますが、橙色のハイライトにございますとおり、課題も多いというのが現状でございます。
 それぞれの課題ですが、HOVについては、「しんかい6500」は4,500メートル超の海域で作業が可能な唯一の探査機ですが、母船「よこすか」も含め、老朽化が深刻な状況でございます。しかもここに書いてあるとおり部品の生産中止も進んでいて、国内での大深度HOVの製造技術も後退している状況でございます。
 ROVについては、かつては7,000メートル級の「かいこう」というのがJAMSTECにございましたが、母船「かいれい」の退役により、現在では4,500メートル付近まで後退し、世界に大きく後れをとっている状況であります。
 AUVについては、今、JAMSTECの「うらしま」、これは3,500メートル級ですが、これを8,000メートル級に改造中でございます。しかし、運用時に複数の水中作業員を要するなど、コスト面、複数・多機種同時運用の実現などが課題となっているところでございます。
 重複しますが、運用面については、今、説明した複数・多機種同時運用などの効率的な運用を想定した設計になっておらず、非効率であると。下の米印のところに海外の例が書いてございますが、米国ではROVやAUVなど複数・多機種の深海探査機を用いた24時間の連続観測とか、米国や英国では昇降式、ガレージ式の着水揚収システムの導入により省人化、船上装置の陸上からの遠隔操作の導入など、効率的な運用システム開発が進展しているところです。こういった運用システムは、日本は後れている状況でございます。
 また、水色のハイライト部分ですが、深海探査システムを取り巻く課題としては、人材育成については、赤字で書いてあるとおり、若手研究者の研究航海に参加する機会が減少などについて、委員から意見がございました。また、産学官連携については、産業向け探査機の技術を取り入れるなどの産学官連携も重要との意見があったところでございます。
 2ポツのところでございますが、深海探査システムに求められる能力についてです。各分野の研究者の方々から、ROV・AUVの最新の研究動向や求められるニーズなどをヒアリングさせていただきました。点線で囲んでいる一番下のところですが、ここは各分野でROVなどに求められるニーズをまとめています。
 例えば海底地質学では、数百キログラムの岩石の持ち帰りが可能な大容量サンプリング能力、地球生命科学では、数センチメートル単位で制御可能なマニピュレーション能力、高い視認性。また、一番下のところに地震防災とありますが、ここでは地震計の設置だとかケーブルなどに接続する、そういった重作業能力などが挙げられていたところでございます。
 5ページでございますが、ここからは、現状の課題やニーズなどを踏まえて、どういうシステムが必要か、どういった開発が必要かなどをまとめております。
 まず、1ポツの上の水色のハイライト部分でございますが、先ほど説明したとおり、深海探査のニーズは非常に多いということではありますが、現状、4,500メートル超の試料採取だとか作業は、「しんかい6500」でしかできないという状況でございます。そういったことから、1台しかない「しんかい6500」のみに依存せず、4,000メートル以深で観察・計測、試料採取、重作業、こういったことができる新たな大深度探査機が必要であると。そのため、以下の三つについて研究開発を推進すべきとしています。
 (1)新たな大深度無人探査機の開発ということで、大深度での試料採取、重作業の機能の強化、研究機会の増大、効率性向上、フルデプス対応した無人探査機を開発としています。
 例えばですが、2030年頃までには試作機の運用を開始ということで、4,500メートル以深での簡便な試料採取機能を搭載したケーブルに依存しない無人探査機を造ると。ケーブルは、深くなるほど当然圧力も高くなるし、乱流などでよじれて切れやすくなると。大深度に耐えられるケーブルは非常に技術的に難しいということで、海外でもフルデプス対応はできていないと。そういったことから、ここに書いてあるとおり、ケーブルに依存しない、例えば音響通信開発などを行うとしております。
 2040年頃には新たな大深度無人探査機の運用開始ということで、高い視認性、大容量サンプリング、重作業、陸上からの遠隔操作が可能な無人探査機ということで、1台のHOVに頼らず、多くの研究者が参画できるように、陸からも遠隔操作ができるような、そういった無人機の開発が望まれるのではないかということで、書かせていただいております。
 (2)母船を含む新たな大深度無人探査システムの構築でございます。24時間観測、複数・多機種同時運用などが可能なシステムの構築ということで、現状、限られたシップタイムの中で、さらに限られた観測しかできていないという状況でございますが、こういった非効率なところを改善していく必要があるというものでございます。そのために、限られた母船、決まった母船でないと探査機が使えないといったことにはならないように、汎用性の高い着水揚収システムだとか母船の在り方について検討を行い、2030年頃には、24時間観測、複数・多機種同時運用実現に向けた実証試験を行って、2040年頃に実現と書かれております。
 (3)の「しんかい6500」、母船「よこすか」の老朽化対策・機能強化でございますが、先に触れたとおり、「しんかい6500」は耐圧殻の設計限界が2040年代になっています。そこまで使えるので、それまでに老朽化対策をしつつ活用していくと書いてございます。
 2ページの右下のところでございますが、「しんかい6500」の後継をどうするかについてということでございますが、委員の中からも、「しんかい6500」は象徴的な存在ではあり、今度の在り方については、技術的な面だけでなく、アウトリーチや教育などの面も含めて今後検討していくとさせていただいております。
 最後に、今後の方針として、システムを取り巻く諸課題への対応ということで、人材育成については、若手人材育成に資する研究航海の機会確保や、海外の優れた研究者を呼び込むことなどから、深海探査システムの維持・発展は重要であるとか、アウトリーチにつきましては、「しんかい6500」等の深海探査機は、科学技術の面での重要性・必要性を社会的に認識してもらう上でも象徴的な重要な存在でございますので、そういったものの公開だとか、市民目線で分かりやすく成果を発信するなどの御意見もございました。そのためには、赤字で下のほうに書いてありますが、深海のリアルな映像を鮮明に伝えるための技術、4K・8KのHDR、VR映像などが必要と。最後、産学官連携では、産業育成だとか経済安全保障の確保なども見据えて、産学官の連携を推進していく必要があるとさせていただいております。
 説明は以上でございます。
【松本委員】 ありがとうございました。事務局の説明に補足いたしますと、本委員会で特に議論された点といたしましては、繰り返しにはなりますけれども、老朽化が深刻な「しんかい6500」及び母船「よこすか」の運用が停止してしまいますと、我が国の調査可能な水深が6,500から大きく後退してしまうという大きな懸念がございますので、早急に対応が必要であること。そのためにも、新たな無人探査機が必要という話が出ておりましたけれども、単に機器開発をするだけではなく、効率性の向上とか、より多くの研究者が参画可能となるようなシステム全体を検討する必要があるといったようなことにも話題が及びました。
 こういったことを踏まえまして、委員会としては、先ほどの事務局のほうでお示しいただきました計画線表でございますが、新たな大深度無人探査機の開発、先を見据えて新たな開発をしていくこと、それから、母船を含む新たな大深度無人探査システムの構築と。母船と無人探査機併せて先を見据えて動いていくこととともに、今現在の研究を止めないということで、「しんかい6500」及び母船「よこすか」の老朽化対策、それから機能の強化といった、大きな3つの柱で進めることが重要と考えてございます。
 加えまして、深海探査の重要性については、国民に広く理解を得るという立ち位置を大事にする必要があることを改めて話題といたしまして、また、裾野を広げて、関与人材を将来的にもどんどん増やしていきましょうと、育成する必要があるという話題が出まして、例えば深海からリアルタイムで映像を伝える技術の開発など、これまでもやってきているという話題も出ていましたけれども、もっと積極的にアウトリーチ活動もしていく必要があるだろうと。こういったところにも工夫が必要ではないかという議論もございました。
 本委員会では、本日の分科会での御議論も踏まえまして、引き続き最終報告書の取りまとめに向けた検討を行いたいと思います。
 説明は以上になります。ありがとうございました。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございました。これは中間取りまとめの段階ですので、今日は委員の皆さんから御意見をお出しいただいて、今後の検討に役立てていただくということだと考えています。
 まずは御質問あるいは御意見等ございましたらお願いいたします。大体15分ぐらいは時間が使えると思いますので、お願いいたします。いかがでしょうか。
 では、谷委員お願いします。
【谷委員】 ありがとうございます。谷です。今日の御報告と、それから報告書を読んで感じたことを申し上げます。
 世界でいろいろと探査能力を持っている国がある、日本は「しんかい6500」とかROVとかでいずれも世界に遅れをとっている、だから何とかしよう、というのは何か動機のように聞こえますけれども、そのような動機は本質とは違うんじゃないかなと思うんです。例えば、人が乗る潜水船、HOVですけれども、それを持っている国に深いところがあるかという話です。日本には、一番深いところで9,780メートルという深いところがあります。それ以外にも、日本海溝とか伊豆・小笠原海溝とか、6,000メートルを超えるところがあって、南海トラフにしても4,500メートルぐらいあります。深いところはいっぱいあります。
 一方、アメリカにしてもフランスにしても、自分のところの敷地の中には深いところはないんです。海外領土にあるところはありますけれども。自らの国の中を測る能力ぐらいは要るでしょうというのが私の思いです。海外がこんな調査船を持っているから日本は持たないといけない、海外にあるのに日本は古いのしかなくて遅れている、という発想で、だから次をどうしようという理屈付けではなくて、そもそも日本は深いところがあるんだから、そこを自分で調べる能力が要るのにそれがない、というモチベーションで議論が進まないといけないと思います。海外との比較が報告書にいっぱい書いてあるんですけれども、そんなのは言っても詮ないことで、日本が自分でどうするかということを考える、そのために何が要るかということを考えていただきたいと思います。
 それから、報告書の中や、今日の御報告にもございましたけれども、人がたくさんいる仕掛けになっていて大変だとか、コストがかかってどうこうとか、シップタイムが足らないからなかなか思ったように測れない、とか書いていますけれども、そこが技術開発を行うべき方向だと思います。今後、HOV・ROV・AUVを造っていくにあたって、人が要らない、コストがかからない、母船が全然要らない、AUVならそれこそ港から勝手に自分で走っていくぐらいの、そういった無人化・省力化が図れるようにしないと、トータルの調査能力というのは、いつまでたったって上がると思えない。人が増えるとも思えませんし、予算が増えるとも思えませんので、そこをどうするかということが議論の主軸にあってほしいんですが、それも議論されていないようですので、そこを今後御検討いただければと思います。
 それから、HOVの話は何度か出てまいりましたけれども、サンプルを採るために必要だとか、あるいは、流れがきついところではROVはケーブルがもたないので深いところに行けないというお話がありました。AUVなら可能だろうと思うんです。AUVが重いものを持てないことを大前提のように議論されていますけれども、HOVに人が乗らずにAIが載っていれば、それはAUVですよね。物理的にAUVは重いものを持ち上げられない、ということはないので、今後の深海調査はAUVでやる。オートノマスをちゃんとオートノマスにする、AUVを賢くするところに力をそそぐべきじゃないか、と思います。
 ありがとうございます。以上です。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。では、続けていきたいと思います。
 吉田委員お願いします。
【吉田委員】 MTI吉田です。よろしくお願いいたします。説明どうもありがとうございました。
 感想ですけれども、こういう新しいトータルの深海探査システムをつくるときに、大事なのはニーズだと思うのですけれども、2に書いてあるように、非常にたくさんの分野の先生方が興味持たれて研究対象とされているということですので、このニーズを基にこういう新しいシステムをつくっていくのが大事かと思うんです。その次のページにあるように、今後のシステムの在り方ということでは、まず各分野の先生の必要とするニーズを基に、どういうハードウエアなりソフトウエアが必要かというのを順々に逆に組立てていくというのが、やり方として大事なのかなと思いました。
ただ、短期的には、ここに書いてあるような、今あるハードウエアをどうやってうまく使っていくかということも必要なのかなと思いましたけれども、視点を変えると、まずボトムアップじゃないですけれども、ニーズからシステムを構築していくのもやり方の一つかなと思いました。
 以上です。ありがとうございました。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。
 では、阪口委員お願いします。
【阪口委員】 笹原財団の阪口です。説明ありがとうございました。
 私も谷委員とちょっとだけ似ていて違う意見がありまして、先ほどの吉田委員の説明で、ニーズが重要だと言われましたが、一部の研究者に何したい、何欲しいと聞いたら、ウィッシュリストを並べてくるというのは世の常ですよね。ただしこれを全部包含するようなものをつくろうとすると、結局どれもうまくいかないと。昔、電子レンジに調理器具がついていて何でもできるというやつが出てきましたけれども、結局全く売れずに、プロの調理人なんか絶対買わないし、御家庭で買ってもほとんどごみになって皆さん捨てたと思うんですよね。それと同じことがよく起こるんですよね。これまでの船舶の建造でも、あれもこれも、これもあれもというのをダーッと積んで造った船が、JAMSTECに最近というか、前に出ましたけれども、結局、あれ使えないこれ使えない、全然動かないということでもうすぐ負の遺産になりつつある。それがまた起こってしまうと私は思います。
 なので、我が国はこれを目標にこれをやるということをパシッと決めて、それに必要なスペックは何だということを決めていかないといけないと思うので、目標がいま一つ、何年までに何々というのをボワーッとした目標ではダメで、これをやる、これを調べる、これを見つける、これを明らかにするということを明確に定めた上で進めていくことが必要じゃないかという、そういう議論があってもよいかと思います。
 例えばアメリカは、「Upgraded& Improved Alvin」というものを今、造っていると思うんですけれども、結局6,500メートル級ですよ。それで、何で6,500メートル級にしたのですかと直接聞くと、まず、日本に追いつきたいので6,500メートル級にしたとか、明確にきちんと答えてくれるわけですよね。なので、明確な目標が一つ必要。これは大事かと思います。
 それからもう一つが、さっき1つ目の審議の中で、藤井分科会長が日本の企業云々という話を出されましたけれども、これも予算つけてもどこも造ってくれるところがないという恐れが非常にあります。そういう状況はよく見られます。その状況で、ニーズが決まりました、目標が決まりました、予算が決まりました、さて、それからどこに造ってもらいましょうかということだと、またまた大きく遅れるわけですよね。
 なので、これをどこにどう造らせるか。自分たちで造るというのでも結構ですし、いろいろな方法があると思うんですけれども、現実にマニュファクチャラーとどう組んでやっていくかということは、これはすごく大事なことで、一点物を造ったって絶対儲からないし、企業としてはすごく価格を上に積んでいくので、そうすると、せっかく取った予算の範囲に収まらないからスペックを下げるという、その毎度のパターンがよく起こっていますよね。なので、出来上がったものが大したものにならないという、そういう状況にならないように、最初からどことどのように組んで造っていくのかという、そっちの方面についてもぜひ議論をしていただければと思います。
 私からは以上です。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。
 それでは、見延委員お願いします。
【見延委員】 北海道大学の見延です。私も谷委員、阪口委員の意見と関係するんですけれども、この3つのHOV・ROV・AUVをバランスよく開発していくというのは、結局どれもちゃんとできないことになりかねないんじゃないかと。特にHOVをこれから開発していくことは、非常にリスクが高いのではないかと思います。
 先ほど谷委員からも出ていましたAIの発展、これがさらに2040年までには必ず数十倍の能力になりますので、それとAUVあるいはROVを組み合わせるということで、HOVでしかできないことというのがないんじゃないかと。もちろん象徴的な意味はあるでしょうけれども、その象徴的な意味のために物すごい予算を投入して、しかもHOVは産業発展も期待できません。そういう大深度をHOVがどんどん産業的に造られることも考えられないので、まさに一点物で、非常に大きい予算を使って、あまり大したことができない。オペレーションももちろん人間がかかるから、ROVなんかに比べると、ずっと限定されることになりかねないんじゃないかと思います。御検討ください。
 もう一つは、このスライドにあります海洋研究者の裾野拡大のためにアウトリーチ活動というのは、これは確かに理解は進むのでしょうけれども、海洋研究者がそれで増えるというわけではないですよね。海洋研究者は、公的な機関であれば公的な機関のポジションを増やさなきゃないですし、むしろ民間の海洋研究者を増やそうということであれば、民間の海洋研究者が何をするのかという設計がなきゃいけないと思います。その点、これではうまくいかないのではないかと感じました。
 以上です。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。
 それでは、川辺委員お願いします。
【川辺委員】 東京海洋大学の川辺です。御説明いただきありがとうございました。
 今の見延委員のお話と重なるのですが、3ページ目の一番下の人材育成のところで、どのような目標を持って、どういうキャリアパスを描けるのかというところを示していただかないと、なかなか海洋科学技術分野の人材育成や裾野の拡大は難しいのではないかなと思いました。
 例えば、私のいるところは海に特化した大学ですけれども、就職先は一般のSEなどのほうが多く、海の仕事に就く人は少なくなっているかと思います。どういう事業に参画できるのか、それは公的機関での研究者でもいいですし、民間企業でもいいんですけれども、どういう仕事の可能性があるのかというところを具体的に示すようなアウトリーチが必要じゃないかと思っております。
 よろしくお願いします。ありがとうございました。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございました。
 人材育成は非常に重要な観点だと思いますが、この深海探査システムの議論の中で、どこまでそれができるか、もうちょっと大きい話題として本当は議論すべきなんじゃないかなとも少し思いました。
 この議論に参加されていた河野委員から少し御発言あると聞いていますので、河野委員お願いします。
【河野(健)委員】 ありがとうございます。JAMSTECの所有する機器に関係しますので、幾つかお答えしようと思います。主査を差し置いて発言するのは僭越ですけれども、そういう事情ですので御容赦願います。
 まず、幾つか共通していたのが、省力化こそ議論の中心である。これは見延先生のHOVは無駄じゃないのかという率直な御意見もございました。それについては議論の対象になっていて、最終的にまだ実現の可能性についての検討は必要ですけれども、示されているビジョンは完全無人化で、人が乗って海の中に行くようなことを目指すものではないということでございます。ただ、山之内課長がおっしゃったとおりで、情緒の問題、あるいはシンボリックな問題とかもあるので、そこはきちんとした議論は改めて必要でしょうという話でございます。
 あと、AUVのAの部分、これは谷委員がおっしゃるとおりで、今、日本でのAUVのAというのは自動操縦と見た目大きく違わないので、ここを強化していかなければいけないというのは、これも議論の対象ではございました。答申の中では要素技術の中に分類されているので、見た目がよろしくないのかなということは感じております。
 それから、ニーズが重要、あるいは阪口委員に、何でも載せる船は使えない、これは名誉のために申し上げておきますが、どの船を指しているのか定かではないですけれども、その後いろいろ手を入れまして、今では、あれも載せたけれども使えない、これも載せたけれども使えないという感じにはなっておりませんけれども、何でも載せると使えない船ができるというのは、一般論として全く私も同感でございます。そこで、今回私たちが考えているのは、そもそもどういう観測をどのようにどのくらいの期間で実現するために最適なセットは何だろうかという、最適化問題として捉えて検討していくというアイデアを持っています。
 それから、人材育成については、藤井分科会長のおっしゃるとおり大きな問題で、これのみによって海洋人材の育成ができるとは思っておりませんけれども、もうちょっと、何でもこれがあればいいんだというような発想の考えを改めるべきかなと思っております。
 以上です。ありがとうございました。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございました。かなり活発にいろいろ御意見頂戴したのだと思いますので、時間の関係もありまして、この辺りまでにしたいと思います。
 私からまた一言二言申し上げさせていただきますが、皆さんおっしゃいましたように、何が知りたいのかというか、何を測りたいのかという観点ですね。ニーズが幾つか挙がっているのですけれども、これは個別のニーズになっていますので、今、河野委員がおっしゃいましたように、ある程度これらから抽出して一般化したものとして、こういう観測の仕方をするような、あるいはこういう観測を実現できるようなシステムとして、そのシステムはどうあるべきか、ということを考えていく必要があるのかなと思いました。それから、HOV・ROV・AUVですが、これもバランスよく整備というのもあるのですけれども、これを組み合わせてどういうシステムが構成できるのかということだろうと思います。
 それから、何よりも、この20年30年で、先ほどの線表にもありましたけれども、実は周辺の技術は物すごく大きく発展しているわけですよね。特にデジタルの部分は、AIをという話もありましたけれども、デジタル技術は相当に発展していますので、そういう意味からすると、そこをいかにちゃんと取り入れた形の、先ほどの「Alvin」のアップグレードの話がありましたけれども、その辺りが相当に新しくなるわけですよね。アップグレードするたびにですね。
それから、そのデプスレーティングが同じだとしても、ファンクションは相当にいろいろな用途に対応して新しい技術を取り入れた形になっていくということだと思いますので、その技術を前提としたときに、どういう観測が可能になるのか、あるいは、やりたい観測をするためにはどういう技術が必要なのかという、その辺りの議論が大事なのではないかなと思います。
 最後のほうに少しハイレゾリューションのカメラとかVRとか出てきましたけれども、まさにVRとかメタバースの技術などは非常に重要な観点になってくるのだろうと思います。また必ずしもビークルの大きいものを一点物で造る必要もなく、機能を絞ったAUVをたくさん造ってもいいわけでありまして、そういう自由な発想もあっていいのかなとも思いました。
 私があまりしゃべり過ぎちゃいけないので、この辺にしておきますけれども、ぜひ、今、委員の皆さんからいただいた意見も反映しつつ、引き続き御検討をお願いしたいと思います。松本委員にはそのような形でお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
【松本委員】 松本です。ありがとうございました。
【藤井(輝)分科会長】 では、次の3番目の議題に入りたいと思います。
 3番目は、「次期北極域研究プロジェクトについて」ということでございまして、これはArCSⅡが令和6年度で終了予定ということですので、この次のステップに向けての議論ということであります。
 これまでの成果と次の方向性について、まずは事務局から御説明お願いします。
【山口海洋地球課企画官】 次期北極域研究プロジェクトについて資料3を用いて御説明させていただきます。
 1ページ目でございますが、次期プロジェクトの検討の進め方について示しております。次期プロジェクトの方向性を御検討いただくため、北極域研究推進プロジェクト推進委員会を3月8日に開催いたしました。この委員会は、ArCSⅡの公募や選考、中間評価などを行っていただいている委員会です。2ページ目に記載の方々に委員に御就任いただいております。3月8日の委員会では、ArCSⅡのこれまでの成果や次期プロジェクトの方向性について御意見をいただいたところでございます。
 1ページ目の黄色マーカーのところが本日の分科会でございます。本日の分科会で御報告、御意見等をいただいたものを、再度4月か5月にこの委員会を開催して、方向性について委員会としての御意見を取りまとめていただく予定としております。その後、7月から8月に開催される本分科会で、次期プロジェクトの事前評価をいただき、R7年度の概算要求につなげていきたいと考えているところでございます。
 3ページ目は、令和2年度から令和6年度の5年間の事業として実施しています北極域研究加速プロジェクト(ArCSⅡ)の概要でございます。北極域の課題解決に向けた取組として、「先進的な観測の実施」、「予測の高度化」等の戦略目標を設定して、研究船・観測拠点などの研究基盤を用いて研究を実施しているところでございます。このプロジェクトのPDには、本分科会の委員でもあられます国立極地研究所の榎本先生に務めていただいております。
 4ページにこれまでのArCSⅡの成果として、上から2段落のところに括弧書きとして記載しております。観測データの乏しい北極域において、船舶・衛星などの多様な研究基盤を用いた観測研究の実施や、「みらい」による北極航海を北極海同時広域観測計画の一環として実施、汎用ドローン等を用いた気象観測手法の考案などの成果を上げているところです。これらを踏まえて3月8日の委員会では、次期北極域研究プロジェクトの方向性の案について御検討いただきました。
 5ページ目の1ポツでは、北極域研究の重要性について述べているところですが、北極域は気候変動の影響が最も顕著に現れている地域であり、その影響は地球全体の環境や生態系に大きく影響するところから引き続き重要であるとしております。2ポツではArCSⅡの開始以降の主な出来事・成果として、北極域の環境変化の実態や海氷メカニズムなどを一定程度解明することができたが、一方で、海氷が厚い海域など、北極域にはいまだ観測データの空白域が存在し、気象予測などを制約する課題が残っていると考えているところです。このため、ArCSⅡ終了後も、「みらいⅡ」などを活用した北極域における高精度の観測を実施するなど、北極域研究の継続した推進が必要と考えているところでございます。
 6ページに今後の課題として、3点挙げております。
 1点目、観測・研究としてですが、観測の空白域、観測データが乏しい領域が存在し、それが気候変動予測を制約。また、森林火災の全体像や影響、温室効果ガスの収支などが未解明なものとして残っていると考えております。
 2点目、観測や研究で得られた知見を活用した防災・減災や、地域社会の環境変動への適応などの社会課題の解決に資する研究の実施及びこれらを実施するための分野を横断した観測や研究の一体的な実施が必要であると考えているところです。
 3点目、観測・研究を継続的に実施していくために必要な人的基盤の構築として、人材の裾野の拡大や国際共同研究等による国際連携機能の強化が必要であると考えているところです。
 7ページに、次期北極域研究プロジェクトの方向性の案としてですが、これまで御説明いたしました課題などを踏まえ、これらを解消するための取組を実施するため、次の1から3の方向性で次期プロジェクトの実施が考えられるのではないかということを示しています。
 1つ目ですが、「みらいⅡ」などを活用した、北極域海氷等を中心とした観測データ空白域の観測・研究です。この方向性の中で実施する取組例としましては、通年での北極海の環境変化を観測する総合的な研究開発や、ニーオルスン基地等の国際連携拠点や、新たな観測手法を活用した観測データ取得の強化などが考えられるとしております。
 2つ目ですが、「みらいⅡ」の国際研究プラットフォームとしての活用や、国際共同研究などによる国際連携の推進です。取組の例としましては、「みらいⅡ」への国内外からの若手研究者や学部学生、技術者、若手船員などの多様な人々の乗船の機会を確保して、国際共同研究の実施や、北極での経験を積んでもらうことによる北極域研究に係る人材の裾野の拡大、また、ニーオルスン基地等の国際連携拠点を活用した共同研究や研究者派遣の拡大などが考えられるところです。
 3つ目ですが、分野横断的な観測と研究による社会課題の解決に貢献する研究開発の推進です。ArCSⅡでは、大気、海洋、雪氷、陸域などといった各分野で観測・研究を実施してきたところですが、北極域の環境変動の全球への影響の把握や、将来予測の精度の向上のための高度な情報を創出として異常気象や災害、住環境や健康への影響といった社会課題の解決に向けては、分野を横断した観測と研究、シミュレーション研究といった、関係する分野を融合して観測と研究を一体的に推進する研究開発が必要なのではと考えるところです。
 8ページ目は次期プロジェクトのイメージ図でございます。図の中ほどに、研究基盤として、観測を支える基盤の「みらいⅡ」等の観測船、ニーオルスン基地などの国際連携拠点、地球観測衛星データ、北極域データアーカイブシステムなどを記載しております。
 これらの研究基盤を活用して、社会課題の解決への貢献を見据えて、大気、海洋、雪氷、人文社会科学などといった、分野横断した研究課題、研究テーマ、ここではイメージとして気候変動課題、災害課題、ガバナンス課題、地域社会課題を記載しておりますが、このような研究テーマを設定の上、それらの解決に資するための観測と研究を一体に実施していく。また、それによって、一番下に記載してございますが、北極域の観測データの充実、気候変動予測の高度化・精緻化、観測データや科学的知見の提供による国際貢献、社会課題の解決に資する情報の創出といった成果が期待できると考えているところです。
 9ページ目は、3月8日の委員会でいただいた主な御意見です。観測研究につきましては、観測空白域に限らず継続的に観測する重要性の明示や、次期プロジェクトを実施することにより科学的に進捗が期待できる部分の明示、また、科学的知見を国際機関等に提供することにより、これまで以上の国際貢献が必要などといった御意見をいただいたところです。
 研究基盤につきましては、北極域研究プログラムに参加した若手がキャリアパスをイメージできるような人材育成が必要であるとか、「みらいⅡ」を国際研究プラットフォームとして活用し、これまで以上の国際連携が必要。また、我が国が砕氷船を有することにより、北極域研究において主導的な立場で活動することを期待する。また、ArCSⅡなど北極域での研究活動について、社会に向けてのさらなる情報発信が必要などといった御意見をいただいたところでございます。
 以上が、3月8日の委員会で御議論いただきました方向性や御意見等です。本日、分科会の先生方から忌憚のない御意見を賜った上で検討を進めていきたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
 また、榎本先生におかれましては、ArCSⅡのPDを務められておりますので、もし補足等がございましたら、よろしくお願いいたします。
 以上でございます。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。
 榎本委員、お願いします。
【榎本委員】 3ページのところにプロジェクトの概要がありますので、皆さん御存じの方が多いと思いますけれども、これが全体の構造でして、真ん中に戦略目標1、2、3、4という構造になって、観測から予測、社会影響、そして社会実装あるいは政策といったところで、従来のプロジェクト、例えば一番左端の観測に集中したり、あるいは予測とかだけではなくて、実際の現地社会の様子も見ながら、あるいは社会影響などを調べながら、国際的なルールづくりに関わるところは右端のほうでやっていくと。国際関係論的なところもやるといったところで行ってきた、そういう流れがあります。
 観測といったところでは、様々なことが分かりましたけれども、観測領域、場所だけではなくて、季節、特に季節の変わり目の急速に大気と海洋の交換が始まるところ、あと氷の下の状況、あとは、なかなか短期間あるいは遠隔、衛星などでは捉えられないような新しい要素といったところも、課題として見えてきたところがあります。
 以上です。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。 それでは、ここまでの御説明につきまして、委員の皆さんから御質問あるいは御意見等ございましたらお願いします。
 谷委員、お願いします。
【谷委員】 ありがとうございます。谷です。質問があります。
 ロシアとウクライナの関係がどういう影響を及ぼしているかということをお伺いしたいのですが、ArCSⅡの期間中にそういった悲しいことが起きて、ロシアに日本がArCSⅡのステーションを置いたり、あるいはデータの交換をしていたり、協力したりしていたと思うのですが、それはどれぐらい続いているのか、あるいは止まったことによってどういう影響が今出ているのかということについて、お教えいただけますか。
【榎本委員】 ロシアとの交流ができなくなっていますので、ステーションの活動は止まっております。ただ、私たちの周りにいる個人個人の研究者は、論文執筆などは共同で行うことができているのですけれども、新たなデータの取り込みはできないことは研究者同士の会話の中で聞いております。
【藤井(輝)分科会長】 見延委員お願いします。
【見延委員】 北海道大学の見延です。
 今回、観測データ空白域の解消というのがかなり前面に出ているのですけれども、これはミスリーディングな感じがして、観測データ空白域の観測を次期プロジェクトが行ったから、劇的に日本のリーダーシップにおいて解消できるとはとても思えないのです。もともと日本のほうがカナダとか北欧諸国に比べると行くのにも時間がかかることもありますので、この方向性2にあるような国際連携の中で応分の負担はやっていくのでしょうけれども、空白域の解消がまず第一の目的であるというのは、おかしな感じがします。もちろん新しい観測を行って、新たな知見は得られるのでしょうけれども、それは多分、空白域の解消という格好ではないのではないかと思います。
 以上です。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。
 河野委員お願いします。
【河野(健)委員】 海洋研究開発機構の河野です。
 北極のナショナルプロジェクトは、GRENE北極気候変動研究事業から数えてArCSⅡで3つ目です。最初は恐らく、氷の融解に対する正のフィードバックの効果に海洋が非常に重要な役割を果たしている、海の中に熱が取り込まれるせいで翌年の氷ができにくくなってと、シンプルに言い過ぎていますけれども、そういうメカニズムが明らかになったということがあって、ArCS第1期のときには、それによって例えば低気圧の経路が変わって、それが北極地域のみならず地球全体に、特に我が国にも大きな気候変動を及ぼすことが分かったと、こういった大きな成果が出てきていると思うのです。それに基づいてArCSⅡが計画されたはずなので、ArCSⅡで新たに明らかになった大きな課題があって、そこで、それを解決するために、何かこういった観測の強化が必要とか、日本のこういうものが必要、そういったストーリーにすると、恐らく分かりやすいのではないのかなと思うのですけれども、何かそれに該当するような大きな成果は例としてあるのでしょうか。
【藤井(輝)分科会長】 この辺りまでで一旦、お答え可能なものでしたらお願いしたいと思いますが、榎本委員から、あるいは事務局からでしょうか。
【山口海洋地球課企画官】 ありがとうございます。
 ArCSⅡのこれまでの成果ですが、資料4ページ目のところで、これまでの成果と今感じている課題と、ArCSⅡとして今後望まれる方向性等を示しております。今御指摘いただきました、いろいろ観測をして新たなことが分かってきたけれども、課題としては、いまだに観測の空白域とか乏しい領域があるので、そこはしっかりと次のプロジェクトでも取り組んでいく必要があるのではないかと。それをやる際に、国際連携をしっかりやりながら、なおかつ、いろいろな人材の育成等も併せてやっていくと。それプラス、社会課題の解決に資するような研究をより進めていくと。そのようなことが課題であるのかなと、考えているところでございます。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。
 榎本委員、もしありましたら。
【榎本委員】 ありがとうございます。少しだけ追加させていただきます。
 まず、最初の空白域だけではなくてといったところは確かにそうで、空白、場所だけではなくて時期的なもの、あと、先ほどお話ししましたけれども、大気と海洋、あと海氷との間の変化が顕著に起きる季節の変わり目、そういったところの重要性がよく分かってきたといったところがあります。そういった季節の変わり目という、なかなか近づけない地域、時期、あと氷という要素、そういったところの科学的な関心から進めたのがGRENEでした。
 それが中緯度、日本を含めた気象に影響してくるといったところはGRENEからArCSⅡの中で進めてきたところですが、ArCSⅡの中では、それを科学者の中で閉じないで、現業機関、気象庁の予測システムの中に取り込んでもらうと。あるいは新潟県とか、国内の各地域に及ぼす影響といったところで、地域の気象研究あるいは気象対策にも入れてもらい、社会につないでくるところをArCSⅡの中でいろいろと取り組んできたということが、この3つの活動の中で流れがありました。
 今、日本向けですけれども、国際的にもArCSⅡの中では、政策向けの発言から、外務省などを通じて国際的な検討の場に持っていってもらう、あるいは、研究者同士がやるのはもう当然ですけれども、具体的な外交の場でのアピールといったところも、この3つ目のArCSⅡの中で行われたところがあります。おっしゃっていただいたようなストーリー性といったところを、プロジェクトが進むにつれて、個別の要素ではなくて3つつないでと、いろいろつないでといったことで行われてきました。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。
 それでは、川辺委員、谷委員、阪口委員の順番でお願いしたいと思います。
川辺委員お願いします。
【川辺委員】 ありがとうございます。
 課題のところで、社会課題解決型研究が必要であるとあります。これはすばらしいと思いますが、後ろの8ページには、戦略目標の3としまして、人間社会に与える影響の評価を行うとあります。これはもちろん社会課題の解決に向けて必要なことだと思うのですけれども、お尋ねしたいのは、ここで人間社会といったときに、どれぐらいの地理的スケールをお考えなのかということです。
 あまり広くとると、例えば日本のような遠隔地までとると、一般的な気候変動への対応、緩和とか適応とかというものと同じような話になってしまう気がいたします。むしろ北極圏に絞られて、例えば、新しい航路ができるなど北極圏の海洋利用の在り方が違ってくる可能性があって、それが社会にどのような影響を与えるのかなど、そういう北極圏に特化した社会影響評価をおこなうとされたほうが、目標が明確になるのではないかと思いました。
 以上です。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。
 谷委員お願いします。
【谷委員】 ありがとうございます。谷です。先ほど質問したことに関係いたします。
 私はGEBCOで海底地形をやっています。北極の海底地形でロシアのエリアのデータはロシアのデータしかないのです。アメリカ、カナダはロシアのエリアに入れていません。ノルウェー、スウェーデンが「オーディン」という船を出して、ロシアと共同で海底地形を測る努力をしてきました。しかし、最近すごくロシア政府のパーミッションが取りづらくて、船を我慢しきれずに出航させて、もう本当にロシアのEEZのぎりぎりのところまで来たときにようやくパーミッションが出たという話があります。
 それぐらいロシアの領域の中に入るのは難しいのですが、「みらいⅡ」を動かして、空白域の解消等々、世界に目立つ成果を出そうと思えば、ロシアの領域の中に入ることは必須だと思うのです。実際データを取るという観点から、ぜひそれをお願いしたいのですが、そのためには船を造るところだけではなくて、ロシアの領域の中に入るための多面的な交渉、ネゴシエーション、人脈づくりということを今からやっていただかないと、追いつかないと思います。そこはストックホルム大学がいろいろな苦労をしているのを見ていますので、あのような人脈の形成とか交渉というのを日本もしておかないと、北極の研究を前に進められないかなと思います。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。
 阪口委員お願いします。
【阪口委員】 ありがとうございます。川辺委員と少し似通った意見があって、ArCSⅡのときには、戦略目標の4つ目のところに中央北極海漁業協定の話と北極海航路への貢献というのがあったのですが、ArCSⅢに向けてはそれがすっ飛んでいるので、文科省の下で漁業協定とか航路のことはやらないという意見がよく出ているのですけれども、直接やるかやらないかということは別として、例えば水産庁とか、それから国交省とかの人たち、また、現業の人たちに役に立つ情報を提供することは、明確な目標として入れておくべきだと私も川辺委員と同じ意見です。ですので、そういうことはすっ飛ばさないできちんと明確に入れておくということが一つ。
 あとそれから、来月、総理訪米時の首脳会談で北極の共同研究について話し合われるというようなこともあるかと思います。そうすると、明確にそんなことを細かく書く必要はないと思うのですけれども、2国間の協力とか、「(米国など)」みたいな、そういう外交的なことにも非常に期待をされている。というのは、このArCSⅡ自体が海外からすごく高い評価を既に得ていますので、その流れをしっかり日本の中にも理解してもらえるような書きぶりに持っていくことが、今後きちんとした予算を取り、それで、「みらいⅡ」もできるということですので、その流れをしっかりと向けていくことは大事かなと思いますので、ぜひそういうくだりも入れていただければと思います。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。
 今出ました意見についての何かレスポンスは、事務局あるいは榎本委員からございますか。
【山之内海洋地球課長】 海洋地球課の山之内です。どうもありがとうございます。
 先ほど阪口委員が言われておられました水産庁とか航路の話、漁業の話ですが、当然、直接やるかどうかというのは分からないのですけれども、こういったことにも貢献できる船、という形でしっかりやっていきたいと思っていまして、内閣府で重点戦略という、いわゆる関係省庁の北極政策がありますので、そことも相談しながら、どこまでいくべきかというのはあると思いますが、検討したいと思います。
【榎本委員】 追加でよろしいでしょうか。
 中央北極海の漁業に関しては、2018年にルールができまして、それから16年間調査をして、その後の使い方をそこで決めるといったところで、それも2年間ごとに調査結果を出すと。沿岸はそれぞれの国が関わるのですけれども、中央となってくると、国際的な取組で、どの国がどこの辺りをどの時期に、といったところが現在行われるべきと、あるいは既に少し行われていますけれども、そういったところに日本もこれから入っていけると。氷のないところは、「みらい」がこれまでも航海を行っていました。
 次期プロジェクトでは、これから、2025年から2030年といったところですけれども、2032年にIPYという国際極年というのが来ます。これは25年おきですけれども、その2032年に向けて、既にそれまでの間に何かをつくっておこうという議論が現在かなり行われているところです。2032年から何か始まる、あるいは2032年だけやるのではなくて、それまでに協働体制を極域科学でつくろうといったところがありますので、それとシンクロするところでも次のプロジェクトは大事な役割になるといったところが、時代の背景と、あるいは科学の進め方といったところがあります。そういったところも多分もっとアピールできるのかなと、今、コメントをいただきながら思っていたところです。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。
 阪口委員、いかがですか。
【阪口委員】 日米首脳会談の成果文書に北極関係の文言を盛り込むといったようなその流れをここにちゃんと酌んで入れておくのはすごく重要だと思いますので、そんなの知らないよということはよくはないと思いますので、それを明確に書くのはいやらしいですけれども、船を使う、それから国際連携を行うという中で、外交的な、また同盟国同士の共同作業という文言を何か少し入れておいたほうが、私は今後のためにも役立つと思いますので、御参考までに。
 以上です。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。
 私からも一つだけ。これはG7でも毎回議論に上がっていることだと思いますので、今の阪口委員のお話もありますけれども、その辺りはしっかり協力してやっていかないといけないと思います。先ほどの谷委員の御意見にも関係するかもしれませんが、その辺りは今後、外交とも併せて努力が必要だろうなと思いましたので、ぜひよろしくお願いいたします。
 多数御意見をいただきまして、ありがとうございました。今後のArCSの御検討にぜひ今日の議論を生かして、引き続き検討をしていっていただければと思います。よろしいでしょうか。
 では、大分時間を押してしまいましたが、最後の議題で、その他で、事務局から幾つか報告事項ございますので、お願いいたします。
【事務局】 事務局でございます。
 今、投影されております参考資料3を御覧いただければと思います。閣議決定され、現在国会で審議されております令和6年度予算案について報告いたします。
 海洋・極域分野の研究開発に関する取組といたしまして、398億円が予算案として閣議決定されているところでございます。詳細な御説明は割愛させていただきますけれども、四つのブロックに応じて、地球環境の状況把握と観測データによる付加価値情報の創生、海洋科学技術の発展による国民の安全・安心への貢献ということで、地震・火山活動とかAUV等の機器の開発、北極域研究の戦略的推進ということで、「みらいⅡ」と、またArCSⅡの継続という部分と、南極地域観測事業というものがございます。また、市民参加事業ですけれども、採択機関が決定しておりますので、御報告させていただきます。
 参考資料4でございます。海洋開発重点戦略ということで、内閣府の海洋政策本部で、国益の観点から省庁内で取り組むべき重要ミッションを対象に、海洋開発重点戦略を策定するという議論がされてきたところでございます。海洋開発重点戦略が対象とする重要ミッションということで、国境離島、また南鳥島の開発、またMDA構想ということで、MDA及び情報の利活用の推進、また、自律型無人探査機AUVの開発・利用の推進ということで、これは4ページ目にAUV構想が書かれているところでございます。そのほか洋上風力の関係と、今議論もございました北極政策におけるものが、重点戦略として、今、議論がされているところでございます。
 続きまして、参考資料5でございます。FSOI「G7の海洋の未来イニシアチブのワーキンググループ」の概要について御報告をさせていただきます。先ほど分科会長からもG7の御発言がございましたけれども、昨年の11月に、日本においてG7FSOIのワーキング会合が開催されたところでございます。赤枠に書いてございますのが主要トピックでございまして、北極域海洋観測と海洋のデジタルツイン、OneArgoが主要トピックとして掲げられているところでございます。
 続きまして、参考資料の6でございます。こちらは経済安全保障重要技術育成プログラム、通称K-Programということで、こちらの第1次ビジョンと第2次ビジョンについて御報告をさせていただきます。
 第1ビジョンは二つございまして、一つ目がAUVによる海洋観測調査システムで、無人機の技術を活用ということで、小型無人機とAUVの両方を活用しまして、無人観測ができる技術開発をするものになってございます。もう一つが、先端センシング技術を用いた海面から海底に至る海洋の鉛直断面の常時継続的な観測・調査・モニタリングということで、海面から海底に至る空間の観測技術の開発をするというものになってございます。こちらの構想一つ目と二つ目は、JSTで公募がされまして、JAMSTECが採択をされました。
 K-Program第2次ビジョンも、海洋関係で二つの構想が決定しているところでございます。一つ目が、海中作業の飛躍的な無人化・効率化を可能とする海中無線通信技術ということで、光通信技術の開発についてK-Programで取り上げられることになってございます。もう一つが、デジタル技術を用いた高性能の次世代船舶の開発技術及び安定運航に関する高解像度で高精度な環境変動予想技術ということで、こちらの二つにつきましては、今後JSTによって公募がされる予定と聞いております。
 最後に参考資料7でございますけれども、戦略的創造研究推進事業についてです。こちらはJSTが公募している事業で、令和5年度の戦略目標で海洋が取り上げられました。昨年度の4月から公募がされて、「CREST」と「さきがけ」について、採択されているところです。「CREST」と「さきがけ」は3年間公募があるということで、来年度も「CREST」と「さきがけ」の海洋とCO2の関係性解明と機能利用について公募がされることになっています。関係者の皆様に広報等させていただきたいと考えているところでございます。
 事務局からは以上となります。
【藤井(輝)分科会長】 ありがとうございます。何か御質問などございますか。
(発言者なし)
【藤井(輝)分科会長】 ある意味、大分、今日の議論の外側でもいろいろな政策が進んでいますので、その辺りも含めて、今後いろいろな検討に生かしていけるといいなと。特にK-Programの関係などは、かなりいろいろな意味で、こちらのサイエンティフィック・ユースについても技術的には関係してくると思いますので。
 よろしいでしょうか。では最後、事務局から連絡事項、そのほかございましたらお願いいたします。
【事務局】 本日は長時間にわたりまして御審議いただきまして、ありがとうございました。
 議事録につきましては、事務局にて案を作成いたしまして、後日委員の皆様にメールにて確認をさせていただきます。
 次回以降の開催日程につきましては、今年の7月から8月頃を予定しております。日程調整につきましては、事務局より後日改めて御連絡をさせていただきますので、御協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
 以上となります。
【藤井(輝)分科会長】 よろしいでしょうか。
 では、第71回の海洋開発分科会、以上で終了とさせていただきたいと思います。
 本日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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