EIC計画及びこれに関連する原子核物理学の新たな展開に関する有識者会議(第1回)議事録

1.日時

令和6年5月15日(水曜日)16時00分~18時00分

2.場所

オンライン開催

3.出席者

委員

   永江座長、小関委員、成木委員、野中委員、日髙委員、藤井委員、前田委員、三原委員、三輪委員

文部科学省

   塩見研究振興局長、松浦大臣官房審議官(研究振興局担当)、西山基礎・基盤研究課長、村松素粒子・原子核研究推進室長、細野加速器科学専門官、北野科学官

オブザーバー

   東京大学・郡司准教授   

4.議事録

【細野専門官】 それでは、定刻になりましたので、ただいまから、第1回EIC計画及びこれに関連する原子核物理学の新たな展開に関する有識者会議を開催いたします。
 本日は、皆様お忙しい中、御出席いただき、ありがとうございます。本会議の事務局を担当させていただきます、文部科学省研究振興局基礎・基盤研究科素粒子・原子核研究推進室の細野と申します。よろしくお願いいたします。
 本日は、オンラインとのハイブリッド形式で会議を開催しておりますので、最初にオンライン会議の留意事項について御説明をいたします。通信を安定させるため、御発言されるとき以外はカメラ、マイクをオフにしていただくようお願いいたします。御発言される際は、ウェビナーの挙手ボタンを押していただき、座長に指名された方からカメラ、マイクをオンにしていただき御発言をお願いいたします。議事録作成のため、速記者を入れておりますので、お名前を言っていただいた後に御発言をお願いいたします。会議中、不具合などトラブルが発生した場合は、事前にお知らせしている事務局の電話番号に御連絡をお願いいたします。なお、本日は、会議公開の原則に基づき、報道関係者や一般傍聴者によるオンラインでの傍聴を認めておりますので、御承知おきください。
 それでは、本日御出席いただいております委員の先生を御紹介させていただきます。
高エネルギー加速器研究機構、小関先生でございます。

【小関委員】 小関です。よろしくお願いいたします。

【細野専門官】 京都大学、永江先生でございます。

【永江委員】 永江です。どうぞよろしくお願いします。

【細野専門官】 京都大学、日髙先生でございます。

【日髙委員】 日髙です。よろしくお願いいたします。

【細野専門官】 大阪大学、藤井先生でございます。

【藤井委員】 大阪大学の藤井です。よろしくお願いいたします。

【細野専門官】 宮崎大学、前田先生でございます。

【前田委員】 前田です。よろしくお願いします。

【細野専門官】 高エネルギー加速器研究機構、三原先生でございます。

【三原委員】 三原です。よろしくお願いします。先ほど音声テストのときはよかったんですけど、今ちょっと事務局の声がくぐもっていて聞き取りにくいので、もしできるようなら改善してください。

【細野専門官】 申し訳ございません。承知いたしました。
 東北大学、三輪先生でございます。

【三輪委員】 東北大学の三輪です。よろしくお願いいたします。

【細野専門官】 なお、京都大学、成木先生、広島大学、野中先生につきましては、途中からの御出席という御連絡をいただいております。
 また、自然科学研究機構、吉田先生におかれましては、本日御欠席の連絡をいただいております。
 また、本日は委員の先生方以外に、EIC日本機関代表の東京大学、郡司先生に御同席いただいております。

【郡司准教授】 よろしくお願いします。

【細野専門官】 続きまして、事務局の文科省からの出席者を御紹介いたします。
 塩見研究振興局長でございます。

【塩見局長】 よろしくお願いいたします。

【細野専門官】 松浦大臣官房審議官でございます。

【松浦審議官】 松浦です。よろしくお願いします。

【細野専門官】 西山基礎・基盤研究課長でございます。

【西山課長】 西山です。よろしくお願いいたします。

【細野専門官】 村松素粒子・原子核研究推進室長でございます。

【村松室長】 よろしくお願いします。

【細野専門官】 北野科学官でございます。

【北野科学官】 北野です。よろしくお願いします。

【細野専門官】 それでは、会議の開催に当たり、塩見研究振興局長より御挨拶申し上げます。

【塩見局長】 それでは、失礼いたします。会議の開催に当たりまして一言御挨拶を申し上げます。
 皆様にはお忙しい中、本有識者会議の委員に御就任いただき、また本日の会議に御出席いただきまして、心より御礼申し上げます。大きな期待が寄せられております量子科学技術、これを量子コンピューターや新たなエネルギー源として幅広く応用するためには、量子に関する未解明な学理を理解することが必要であり、原子核物理学や数学等の幅広い分野の研究コミュニティーが連携して取り組むということが求められております。このため、本年4月に取りまとめられました、政府の「量子産業の創出・発展に向けた推進方策」におきましては、量子科学技術の基礎学理を探求する大学・研究機関等の研究体制を抜本的に強化するとともに、人材育成を進めるということが重要とされております。また、本年の2月には、米国のエネルギー省から我が国に対しまして、原子核物理学分野の国際プロジェクトであるEIC計画への参画要請というものが行われたところでございます。
 こうした状況を踏まえまして、本会議では、原子核物理学の新たな展開や、EIC計画への我が国の参画について、専門的見地から御検討いただきたいと考えております。ぜひ活発な御議論をいただければと存じますので、よろしくお願いいたします。

【細野専門官】 ありがとうございます。次に、本有識者会議の座長でございますが、資料1に基づき、研究振興局長が指名することとなっておりますので、永江先生にお願いしております。永江座長より一言御挨拶をお願いいたします。

【永江座長】 永江です。このたびはEIC計画という、原子核物理分野にとって、また関連する近隣の科学分野にとって非常に重要性を持った計画がいよいよ進もうとしている非常にいいタイミングを捉えて、日本の文科省がこういった会議を立ち上げていただいたということに非常にうれしく思っております。我々もアメリカの研究仲間たちと一緒になって、この計画に、どう日本が寄与していけるのかということを真剣にこの会議で考えたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

【細野専門官】 ありがとうございました。以降は会議の進行を座長にお任せしたいと思います。よろしくお願いいたします。

【永江座長】 それでは、議事を進めてまいりたいと思います。配付資料の確認に移らせていただきたいと思います。事務局のほうからよろしくお願いします。

【細野専門官】 事務局でございます。それでは、配付資料の確認をいたします。画面共有しておりますので、御覧ください。配付資料は、資料1から資料5を用意しております。資料に不備等がございましたら、事務局まで御連絡ください。なお、本日の資料、議事録は後日ホームページで公開させていただきます。以上でございます。

【永江座長】 ありがとうございます。それでは、議事に入ります。議題1として、本有識者会議議事運営等について、事務局から説明をお願いします。

【村松室長】 素粒子・原子核研究推進室長の村松です。資料1と資料2について御説明いたします。
 まず、資料1を御覧ください。本有識者会議の設置決定です。まず、設置の趣旨ですが、量子科学技術を幅広く応用していく、そのためには未解明な学理の理解が必要であるということから、原子核物理学をはじめとした幅広い分野の研究コミュニティーが連携して取り組むことが必要であると考えておりまして、量子科学技術の基礎学理を探求する大学・研究機関等の研究体制を抜本的に強化していくという方針を今政府としても打ち出しているところです。一方、米国で今進んでおりますEIC計画では、原子核物理学の国際プロジェクトとして、2026年に建設開始、2032年に実験開始という予定で今準備が進んでおりますけれども、米国エネルギー省から、文部科学省に対しまして、ブルックヘブン国立研究所での建設に向けて今進んでいるこの計画に参加してほしいという要請があったところです。このようなタイミングですので、専門的見地から御検討いただくために本会議を設置いたしました。構成員ですが、次のページに掲げております10名の先生方にお願いしております。なお、座長でございますが、先ほどから司会進行いただいております永江先生に座長をお願いしています。また、本会議におきましては、必要に応じて構成員以外の者を参加させることができるとされていまして、今日は東大の郡司先生に御参加いただいています。検討事項につきましては、EIC計画への我が国の参加について、あと、これに関連する原子核物理学の新たな展開について検討いただくことにしています。設置期間は本年5月1日から再来年3月31日で、後ほど御説明いたしますが、主には今年度中の検討を予定しています。なお、素粒子・原子核研究推進室が事務局を行っております。
 資料2を御覧ください。本有識者会議の議事運営規則です。通常の会議の運営規則にのっとっております。ごくごく簡単にポイントだけ説明させていただきます。まず、第2条の2ですが、座長が有識者会議に出席できない場合は、あらかじめ座長の指名する構成員が、その職務を代理するということで、後ほど座長から指名をいただきます。また、第3条ですが、過半数が出席しなければ、この会議を開くことはできないとされています。また、Web会議システム、いわゆるオンラインによる会議出席を可能としています。また、4にございますように、メール審議、持ち回り審議というような、その他の方法による開催も可能としています。また、4条ですが、欠席する場合は、代理人の参加はできないということを規定しております。また、この会議、既にもう公開で行っておりますが、第5条にありますとおり、この会議は原則として公開で行います。ただし、座長が会議を公開しないことが適当であるとしたときは、この限りではないとしておりまして、今のところ非公開で行うという予定はございませんけれども、公開しないことが適当であるとしたときは、非公開とさせていただく可能性があります。また、6条にありますように、原則、議事録は公表としております。ただし、先ほど申し上げたように、会議そのものを公表しない場合は、議事録の公表もしないということもできるとしております。次のページの7条ですが、先ほど定めた6条までのほか、何か必要なことがあれば、座長が定めるというルールにしています。以上です。

【永江座長】 どうもありがとうございました。ただいまの説明に関し、御意見・御質問等ございますでしょうか。ございませんか。それでは、本会議の議事運営につきまして、資料2のとおりで進めていきたいと思います。
 また、座長代理につきましては、運営規則第2条2項に基づき、座長が指名することとなっております。つきましては、三原先生にお願いしたいと考えます。よろしくお願いいたします。

【三原委員】 承知しました。

【永江座長】 次に、議題2として、本会議の進め方についてです。事務局から説明をお願いします。

【村松室長】 村松です。先ほどに続いて説明させていただきます。資料3を御覧ください。この有識者会議の検討の進め方です。まず、第1回、本日ですが、この「有識者会議における検討の進め方」、このペーパーですね、御議論いただきます。また、次の議題として、検討の観点について御議論いただきます。そして最後に、EIC日本グループ、郡司先生からのヒアリングを行いまして、意見交換をさせていただきます。次回以降ですけれども、6月頃、第2回を予定しておりまして、原子核物理学分野の研究者、これは実験、あと理論の我が国を代表する研究者の方からヒアリングを行いまして、本日は主にEIC計画について郡司先生からお話を伺いますけれども、EIC計画を受けまして、我が国として、原子核物理学、どのような新たな展開をしていくのかというような観点につきまして、研究者からヒアリングを行うという予定にしています。また、恐らく今日いろいろと御指摘いただく中で、郡司先生から今日お答えし切れない部分もあるかと思いますので、今日いただいた指摘の中で次回回答させていただくとした内容については次回回答していただいて、意見交換をさせていただくという予定にしています。また、可能であれば、中間報告の骨子案をお示ししたいと思っております。第3回は7月頃に予定しておりまして、ここでは中間報告の御審議をさせていただければと思っております。4回、5回は9月から翌年の2月頃ぐらいにかけて開催させていただければと考えておりまして、議論の中で指摘されてきたこと、その論点の残された論点について御審議いただきまして、令和7年3月頃を目途に6回を開催して、最終報告を取りまとめたいと考えております。なお、これはあくまで我々の案でございまして、今後、議論の状況によりまして、議題の変更あるいは開催回数の変更等があり得ます。以上です。

【永江座長】 どうもありがとうございました。ただいまの説明に関しまして、御意見・御質問等ございますでしょうか。あれば受け付けますけれども、いかがでしょうか。よろしいですか。それでは、どうもありがとうございました。具体的なスケジュールについては、別途事務局より御連絡させていただきたいと思います。次に、議題3として、検討の観点についてです。事務局から説明をお願いいたします。

【村松室長】 村松です。続いて、資料4-1から資料4-4に沿って御説明させていただきます。今回検討いただくに当たりまして、まず政府内でどのような議論をしているかという状況について、資料4-1で御説明させていただきます。先ほどから何度か御紹介しております量子産業の創出・発展に向けた推進方策を、内閣府が設置した量子技術イノベーション会議で4月に決定しています。その中で、強化すべき具体的な取組として、最初の「自国技術の育成・確保」というところに書いてありますけれども、広い意味での核物理等の幅広い分野と連携して、量子科学技術の基礎学理を根源から探求する大学・研究機関等の研究体制を抜本的に強化する、これをFundamental Quantum Science構想と名づけまして進めていくことを打ち出しております。また、そのFundamental Quantum Science構想としては、未解明な学理に対する理解を深めて、量子系の能動的制御を可能にするとともに、そのために、原子核物理学をはじめとした様々な分野が連携して取り組んで、優秀な人材の育成をしていくことを政府としては打ち出しております。
 次の資料4-2を御覧ください。この後、郡司先生からEIC計画について説明いただきますが、政府として把握している外形的なところを簡単に御説明させていただきます。まず、概要ですけれども、米国で今進んでいる原子核物理学の次期の計画で、電子と陽子や原子核をぶつける、そういう円形加速器の実験です。陽子や原子核の内部構造の精密な測定を行うことを目的にしております。建設予定地は米国ブルックヘブン国立研究所(ニューヨーク)で、現在RHICという加速器が動いておりますけれども、2025年に運転終了を予定しておりまして、その使える部分は最大限使い、設備を追加して整備すると聞いております。建設コストですけれども、現時点で17億米ドルから28億米ドルと、日本円で約3,000億円前後と見積もられています。下に絵が描いてありますけれども、大体周長3.8キロの加速器です。このEPIC実験と書いてあります測定器を国際共同でつくっていく計画です。次のページを御覧ください。2ポツ、計画の状況です。これまで、米国エネルギー省(DOE)で既に、CD(クリティカル・ディシジョン)という考え方を彼らは取っていますけど、段階承認のプロセスが進んでおりまして、特に2022年の8月には既にこのEIC計画に対して1.38億ドル、日本円にしますと約200億円の予算措置が既にされているところです。今後の予定ですが、特に重要なメルクマールとしましては、2025年4月にCD-2という、コストとかスケジュールを評価する極めて重要な承認プロセスがありまして、ここまでに、参加する国からは、どういう貢献が可能なのかということを明らかにしてほしいというのが米国DOEからの各国へのお願いです。ですので、我々としましては、25年4月までに何らか表明するためには、今年8月の概算要求に来年度予算の要求を盛り込んでいく必要があると考えておりまして、このタイミングで有識者会議での御議論をお願いした次第です。
 次の資料4-3を御覧ください。先ほど申し上げたDOEからの要請の概要です。本年2月にDOEと意見交換をしまして、その中でこのような意見がありました。特に②にありますように、日本のEICに対する貢献はEICプロジェクトを成功させる上で必要不可欠であると表明をいただいて、かつ、これまで日本が、③に書いてありますように、理研がブルックヘブンに研究センターを設置して、原子核物理学分野で科学技術協力をしてきた、その実績を非常に高く評価しております。その上で、日本の大学・研究所などの研究コミュニティーがEICに貢献することを強く期待しているということと、文部科学省がそれを支援してほしい、そういう要請をいただきました。文部科学省からは、速やかに検討する旨を回答しております。このような経緯がありまして、本日、有識者会議で検討をお願いしている次第です。
 具体的な検討に当たって、検討いただきたい観点が資料4-4です。あくまで事務局の案ということで、かつ主なということで、決してここに書いてあることに限るという趣旨ではありませんので、先生方から御指摘がありましたら、それも反映して議論を進めていきたいと思っております。まず1つは、大きく論点、この有識者会議は2つあると思っておりまして、1つは原子核物理学の新たな展開。我々、Fundamental Quantum Science構想と呼んでおりますけれども、そういう大きな視点があると思っております。そのような観点では、どのような新たな学問を創出していくのかというような観点、エネルギー分野や量子分野のイノベーションにつながる新たな技術創出ができるのかという観点、幅広い分野の研究コミュニティーが連携して取り組む体制の構築ができるのかという観点、大学・研究機関等の研究体制を抜本強化できるのかという観点、関連人材の育成が進むのかという観点、このような観点が全体としてはあると思っております。あと、特に中核となりますEIC計画に関しましては、科学的意義、そして計画の推進体制、戦略性、緊急性、人材育成、社会や国民からの支持といった観点があると思っております。そのほか、このような観点もあるのではないかという御意見ありましたら、そういう点も取り入れて議論を進めていきたいと思います。私からは以上です。

【永江座長】 どうもありがとうございました。ただいまの説明に関し、御意見・御質問等ございますでしょうか。オンラインでつながっている方々、いかがでしょう。大丈夫ですか。三原さん。

【三原委員】 御説明ありがとうございます。1つちょっと質問なんですけれども、室長が言われた検討の主な観点というところの2番目ですね。エネルギー分野と量子分野のイノベーションにつながる新たな技術の創出、これは相当難しく、ハードルの高いことだと思うんですけれども、これに対して、例えばはっきりした結論が出ないということも当然この有識者会議の中でもあると思うんですけれども、どこまで踏み込んだ検討というのを想定されているのか、もう少し具体的に、お考えがあるなら御説明いただきたいと思います。

【村松室長】 イノベーションにつながるという言い方がやや、人によって解釈の幅があるのではないかと思っていますけれども、これは実際に実用につながるとか社会を本当に変革するのは場合によっては数十年、30年とか40年、50年というスケールかもしれませんけれども、そういう社会変革を起こしていくことにつながるような、そういう新たな技術が創出される、そのネタになるような新たな発見とかが期待できるかどうか、そのような観点で検討いただければと思っております。

【三原委員】 承知しました。

【永江座長】 ほかに何かありませんか。小関さん、どうぞ。

【小関委員】 すみません。ありがとうございます。細かいことなんですけど、今の室長の説明で建設コストの紹介があったと思うんですが、17から28億という、この幅の意味がもしお分かりであれば教えていただけるとありがたいんですけれども。

【村松室長】 すみません、DOEのホームページに書いてあるという。

【小関委員】 17億のバージョンと28億のバージョンで完成形が違うということでしょうか。それとも、経費のアンビギュイティーがこれだけあるということを言っているんでしょうか。

【村松室長】 すみません。現時点で、詳細をちょっとよく確認しておりませんで。郡司先生、分かります?

【郡司准教授】 分かりません。

【村松室長】 すみません。分からないと。

【小関委員】 分かりました。どうもありがとうございます。

【村松室長】 あくまでDOEの承認のときに、この範囲内で承認すると言われているということで、それ以上把握しておりません。

【小関委員】 分かりました。どうもありがとうございます。

【永江座長】 ほかにございませんでしょうか。よろしいですか。ありがとうございました。
 それでは、次に、議題4として、EIC-EPIC日本機関からのヒアリング及び意見交換です。先ほど事務局より説明がありましたとおり、25分程度で御説明いただき、50分程度、質疑応答及び意見交換をしたいと思います。それでは、本日お越しいただいている東京大学、郡司先生より説明をお願いします。

【郡司准教授】 それでは、郡司のほうから、「EIC計画が切り拓く原子核物理学の新たな地平」ということで説明させていただきます。私自身は、このEICにおいてEPIC実験の執行部委員を務めておりまして、あとは日本側の機関代表を務めております。よろしくお願いします。
 次のページをお願いします。原子核物理の目標、EICが目指すもの、EICの意義ですね。特に、EICがどうコアとなって原子核物理に新しい展開をもたらすのかという視点と、世界の動向、日本の戦略、体制に関してお話ししたいと思います。原子核物理の目標は、宇宙における「物質の起源と進化」を解明することです。例えば、物質の起源はどうなっているのか、物質はどういう終えんを迎えるのかということを理解するのが目標です。大きく重要なフェーズとして分けますと、まず1つ目は、クオークから陽子、中性子、あとは軽い元素がどうやって生成されていくのかということと、例えば宇宙の中で起こる超新星爆発、こういったところで重たい原子核、重元素というのがどうやってつくられていくのかということと、あと中性子星の中身は色々な相構造がありまして、こういったことを研究するのが目標です。
原子核物理を支える様々な加速器があります。原子核の世界、エネルギーでいうところのメガエレクトロンボルトになるんですけれども、これは原子核を調べる領域でありまして、日本のRIBFが拠点になっております。それよりエネルギーが高いところでは、原子核の中の陽子とか中性子、ここの中のクオーク3つから成る構成子クオークが見えてくる世界になってきます。この辺の物理も日本に大きな拠点がありまして、それが原研にありますJ-PARCという加速器になっております。実はこれだけではなくて、教科書的には陽子はクオーク3つとあるんですけれども、非常に重要なのは、非常に高いエネルギーで、この陽子の中をもうちょっと見てあげると、それが一番右になるんですけれども、そこにはクオーク、反クオークとかグルーオンとかがたくさんいるような世界が広がっております。こういったクオークとグルーオンを見るのはもっと大きなエネルギーが必要で、海外、例えばブルックヘブンのRHIC加速器とかCERNのLHC加速器が海外拠点となって研究が展開されております。Electron-Ion Colliderは、エネルギーとしては非常に高エネルギーで、クオークとグルーオンの世界を見るんですけれども、ただ、その性質上、特徴をうまく使うことによって、原子核から、構成子クオークの世界、そしてクオークとグルーオン、全ての階層をつなぐ研究というのを展開することができます。これが我々の原子核物理に飛躍的な進展をもたらします。
 このElectron-Ion Colliderは、電子とイオン衝突型加速器でありまして、右のゆっくり動いているアニメーションにあるとおり、核子や原子核の中をのぞく精密なマルチスケールの電子顕微鏡と言うことができます。マルチスケールと言っているのは、エネルギーをうまく実験で選ぶことによって右下にあるような原子核の世界から構成子クオークの世界が見え始め、もっと大きなエネルギーを使えばクオークとかグルーオンの世界が見えると、こういう階層構造を見ることができます。左の図の赤いリングはもう既にありまして、ここにエレクトロンの新しいリングを新設するという計画になっております。これは世界初の高エネルギーの電子と高エネルギーの核子・原子核の衝突型加速器でありまして、偏極電子と偏極陽子、偏極重陽子、偏極ヘリウムの衝突ができますし、あと偏極電子と原子核が衝突する加速器になっております。
 EICが挑む、我々が非常に重要と思っている根源的な問題が幾つかありまして、まず1つは物質の質量の問題であります。銀河とか恒星や地球をつくる陽子や中性子や原子核の質量、この起源は1%がヒッグス機構で、99%はクオークとグルーオンのダイナミクスなんですけれども、この99%のダイナミクスが理解されていない、この中身が理解されていないというのが1つです。2つ目はクオークの結合問題ということで、クオークはほぼ質量ゼロの相対論的な粒子であるんですけれども、それらがどのように結合して核子や原子核を形成していくのか、これもまだ大きな謎であります。3つ目は核子のスピン問題で、相対論的に運動するクオークとグルーオンがどのようにもつれ合って核子スピン1/2をつくり出すのか。構成子クオークは25%しか寄与していないので、残りは一体何で生み出されるのかというのが分かっていない。これら①②③を端的にまとめますと、これらは、いずれも、グルーオンと呼ばれる自己相互作用するボース粒子、クオーク同士の力をメディエートする、このグルーオンが非常に重要な役割を果たします。このEICは、グルーオンとその量子揺らぎ、それらの役割を検証する絶好の場でありまして、高エネルギーで加速するので、左側のようなクオーク3つの世界からグルーオンが支配する構造に変化するんですけれども、こういう状態を検証する絶好の場であります。相対論的ボース粒子と相対論的フェルミ粒子の混合多体系として核子や原子核のサイエンスに人類が初めて挑戦するプロジェクトとなっております。もっと広く見たときに、それが一体何をもたらすのかということなんですけれども、我々はQCD(量子色力学)の真空構造というのがまだよく分かっていない。南部先生が、我々の真空というのはクオークと反クオークが凝縮していて、そこの中をハドロンが動く、陽子とかが動くことによって質量を獲得すると言われています。そういった真空の構造を理解することにつながります。陽子の周りがクオークとか反クオークとかグルーオンが凝縮している状態なんですけど、我々は中の構造を見ることによって、周囲からどういう影響を受けてそういった中の構造が出来上がっているのかというのを見ます。陽子内の圧力とか、質量の内訳を見ることによって、周りがどういう状態だったかということを検証することができます。
 9ページで、もう一つは、中間子交換描像を超える新しい原子核の姿とか新しいハドロンの構造の理解にもつながります。左の図は核力でありまして、1フェルミよりも短距離の時には斥力が働いている。これぐらい近くなってくると、例えば陽子同士も重なり合って、クオークとグルーオンのダイナミクスが非常に重要になってきます。一方、長いところになってくると、パイ中間子の交換で原子核というのができているという描像になります。原子核は核子の重ね合わせではないということは、随分前から知られております。原子核内部では核子中のクオークやグルーオンの振る舞いが変化して、核子間の相互作用が影響を受けます。その結果として、原子核の中では、短距離での強い核子相関とか、クラスター構造とか、3体力の重要性とか、がどんどん現れてきます。ハドロンと呼ばれているクオークから成る粒子があるんですけれども、大抵2つとか3つなんですけれども、最近は4個、5個、6個という新種のハドロンがたくさん発見されています。どうやってそういう構造が成り立っているのかを見るには、クオークとグルーオンのダイナミクスを理解するということが非常に重要になってきます。
 10ページ目、次のページをお願いします。中性子星の内部構造の理解にもつながります。我々は、原子核や核子がクオークとグルーオンに分解していく様子、どんどんエネルギーを上げて、見るスケールをどんどん小さくしていくことによって、原子核の世界からどうやってクオークが見え始めて、さらに今度はグルーオンが見え始める、そういった世界をEICで見ます。これは、例えば中性子星でいうところの密度をどんどん濃くしていく状態に対応していて、ハドロンという状態から、ハドロンが重なり合ってクオークの世界が現れて、それがさらに高密度になると、クオークがペアを組んだりするような新しい相に変わっていきます。ここには非常に大きな類似性があるということで、こういうところの理解にもつながっていくだろうと思っております。
 私自身がずっと研究してきたことでもあるんですけれども、クオーク・グルーオンプラズマと呼ばれるものの理解にもつながります。このクオーク・グルーオンプラズマというのは、一番最初に紹介した、宇宙が始まってから数マイクロ秒後の世界、非常に熱い世界はクオークとグルーオンのプラズマ状態になっていたんですけれども、これがどういう性質を持っていたのかというのを理解するときに、この陽子とか原子核の量子揺らぎを理解することが必要になってきます。例えば、我々、いろんな実験から間接的に、陽子というのは真ん丸ではなくて、真ん中の図とかアニメーションにあるように非常に揺らいでいて、形も真ん中の図にあるように変な形をして、しかもそれが時間的にも変動している、揺らぎの大きい状態であるというのを知っております。こういった状態を知ることが、一番左下にあるクオーク・グルーオンプラズマの性質、これは粘性を示している色々な物質に比べて、世界で一番さらさらした物質ができているのですけれども、ここの理解に役に立ちます。
 もう一つ重要な観点は、実験と計算科学が非常にいい循環を果たすだろうということでありまして、EIC実験が精密な基礎的なデータをどんどん出してきます。そうしますと、例えばこの左下にあるように、これは質量の決定精度なんですけれども、これまでは10%でしか決められていなかったのが、例えば1%の誤差で決まるようになります。これに合わせて、当然、理論も1%以上の精度で分かっていかなきゃいけないことになるんですけれども、そういう実験結果が、「富岳」をはじめとする格子QCD計算とか新たな量子計算の発展に寄与することになります。EICに関連するパートン分布関数とか実時間発展、そういったものを理解するのは古典計算よりも量子計算が威力を発揮する可能性が高いと言われております。
 以上のように、EIC計画は日本の核物理においては、真空から核構造、中性子星まで、原子核全体に新たな視座をもたらす、ブレークスルーをもたらす実験でありまして、加速器実験、量子センシング、スパコン、量子コンピューターが一体となった「量子物質科学」へと発展すると思います。私個人的には、EICがきっかけとなって例えば量子計算が発展して、核構造から非平衡のダイナミクスまで、ありとあらゆるものが記述できたら、核物理は完成して、その先に見えるのは原子核を使い倒す時代になってくると思います。あともう一つ重要なのは、我々がこういうことをやることが科学技術やイノベーション創出を支えるための学理へと発展することであります。
 それに関してFundamental Quantum Science構想というのがあります。量子科学技術を幅広く応用するためには、例えば核スピンのコヒーレンスの起源、外部環境にさらしたときにどうその相関が崩れていくのかという量子開放系の挙動の理解が必要ということと、あと、我々が見ているのは量子多体系で、非常に非線形性が強い物質を見ておりますので、例えば核融合プラズマと数学的な構造も似ているので、手を取り合って進めていくことに非常に大きな価値があると思っております。こういうところとつながって展開していくというのが新しい姿であると私は思っております。
 核子とか原子核の見方を変えると、量子もつれとか量子性が非常に強く保たれた系であると言うことができます。原子核というのは核子がもつれ合った状態で、ハドロンというのはクオークがもつれ合った状態、さらにEICのような高エネルギーになりますと、その中は実はグルーオンでたくさんもつれ合っている状態。基礎量子科学における核物理というのは、スピン・フレーバー・カラーの量子もつれがどのように核子や原子核の構造、あとスピンとか質量というのをつくるのか、どうやって強靱な量子性というのが生まれているのか、そういった基本原理を解明することにつながる。もう一つは、原子核とかグルーオンでできる状態というのは量子多体系で、そういった場をうまく使うことによって、非平衡開放系の挙動、量子相関のデコヒーレンスとか散逸とか、そういったことを理解することもできます。原子核物理というのは、基礎量子科学の学理探求の核心になると思っております。
 この基礎量子科学において重要な4つのピラーというのを考えておりまして、まず1つは量子強靱化、どうやって強靱な量子性が保たれているのかということと、あと量子多体系の創発ダイナミクスですね。複数の量子がお互いの振る舞いを感じながら、どうやって新しい状態を持った、新しい機能を持った物質というのが創発されていくのか。あとは量子開放系の非平衡現象ですね。量子系はほとんどの場合、環境と接しておりますので、非平衡開放系であります。これを記述する理論体系を完成させると。もう一つは量子の極限計測ということになります。
 これらのピラーに例えばどのようなコントリビューションができるかといいますと、量子強靱化というところでは、例えば核子―原子核におけるスピンと、あとフレーバーの量子もつれ。例えばスピンと2分の1というのがどうやってできているのかということの理解です。量子多体系の創発ダイナミクスでは、クオークから原子核、元素、中性子星に至る階層構造です。量子開放系の非平衡現象という意味では、クオーク・グルーオン系の非平衡状態とか、重元素の生成反応とか、あとは非束縛原子核系、こういったところの振る舞いを理解することで、フィードバックをかけていくことができると思っております。
 核融合方面も、原子核と非常にオーバーラップがありまして、私の専門のところから言わせていただきます。我々は、重たい原子核同士をぶつけて、数兆度の世界、クオークとグルーオンのプラズマ状態をつくっております。それがどうやって熱化に至るのか、その後はどうやって時空発展するのかというのは、例えばレーザー核融合のダイナミクスの理解と通じるものがあります。もう一つは、クオーク・グルーオンプラズマ中で時々非常に大きなエネルギーを持った粒子が走るんですけれども、その走ったときに、この走る粒子はエネルギーを落とします。その落としたエネルギーがプラズマを再熱化するというような現象も分かっていて、核融合プラズマ中の高エネルギー粒子の挙動とかプラズマの自己加熱、プラズマの安定性とかにつながる話でありますので、今後、互いの交流・連携がプラスになると期待しております。そこには、高密度プラズマの基礎学理、非線形効果、揺らぎがどういう構造をつくるのか、輸送特性、ミクロとマクロを同時に解くような手法、ミクロからマクロをつなぐシミュレーションの技術、あと核物理のど真ん中、例えば新しい核反応の探索、あとは技術です。測定器とか、データ収集とか処理と人材育成、こういったところで非常に強いオーバーラップがあると思っております。
 次からは、EICの周辺の経緯と体制を説明させていただきます。EICの経緯は、2015年にNSACのロングレンジプランで初めて言及されました。その前からも議論はあったんですけれども。2019年にCD-0の承認があり、2020年にブルックヘブンに建設場所が決まりました。2021年に検出器コラボレーションが形成されて、2021年6月にCD-1の承認があったという状況であります。
 EICのサイエンスを支えるために、EICユーザーグループというのが2016年に設立されております。これは1,400人の研究者、38か国、290の機関から構成されております。セミナーを定期的に開催し、EIC Users meetingを年に1回集まって開催しております。日本からも15の機関が参加しております。アジアでも大体30%ぐらいですね。もう一つは、Resource Review Boardというのが設立されております。これはEICの予算状況や予算計画に関する議論を行う場で、約10か国の資金提供機関、ファンディングエージェンシー代表が参加して議論している場であります。日本からは、これまで3回にわたって、私と理研の後藤さんがオブザーバーで参加しております。
 各国が予算をつけ始めている段階で、例えばイギリスは74.2ミリオンダラーの予算をEICにつけました。イタリアやフランスも粛々と準備を進めている状況であります。
 日本は、このEICにおいて非常に強いリーダーシップを期待されております。私が執行部委員に入っているのもそういう理由です。これは、ブルックヘブンにおけるこれまでの日本の実績が非常に大きいと言うことができると思います。PHENIX実験という2016年に終わった実験があるんですけれども、多くの検出器を建設しました。約100億のうち30億は日本が検出器をつくってコントリビュートしたものになっております。12機関ありまして、大体500人ぐらいのコラボレーションのうち、その約20%、100人ぐらいが日本人だったということで、T2Kと同規模なものが海外の実験で実現できていたということになります。あと、2人のスポークスパーソン、実験代表者を輩出しまして、クオーク・グルーオンプラズマと呼ばれる物理、あとスピンの物理、このスピンは日本がRHICに持ち込んだプログラムであります。この2つを発展させるのがEICということになっております。延べ、50名の博士号を出して、大学に残っている人もいれば、例えばデータサイエンティストとして、色々な方面で活躍されている人を輩出しております。あと理研BNLセンターというものがあります。これは日本グループの最前線基地ですね。理化学研究所がブルックヘブンに設置したセンターでありまして、国際頭脳循環と国内外の研究者の人材育成に非常に優れた貢献を果たしてきました。ブルックヘブンの中に海外の拠点があるのは日本だけなので、これは今後も生かすべきだと思っております。
 アジア間を取りまとめる立場というのも日本に期待されております。そのために、EICのAsiaワークショップというのを定期的に開催、持ち回りで開催しておりまして、月例でEIC-Asia meetingというのをZoomで行っていたり、検出器やシミュレーションに関する共同研究もどんどん今進めております。
 EICの中の、左の図の青い丸で囲んだ、ここにePIC実験というものが2019年に設立されました。このePIC実験は国際共同実験で、ここに測定器を持ち込んで実験をする、そういう実験グループです。これは24か国、171大学・研究機関で、500人の研究者で構成されております。右にあるのは、大体どの国からどれぐらいのインスティテュートが参加しているのかというものなんですけど、アメリカ、インド、韓国、イタリア、これに次いで、日本はUK(イギリス)と同じで10の機関参加しております。5番目の規模に今なっております。
 日本の参加する機関というのをここに書いてありますけれども、分野を超えて結集しているというのが非常に大きな特徴だと思います。これまで核子の構造を研究していたグループと、クオーク・グルーオンプラズマと呼ばれている高エネルギー重イオン衝突から来ているグループ、高エネルギーの素粒子物理から参加している大学もあります。あとデータ収集系は、これは日本の核物理全体が関わっているプロジェクトで、こういったところが参加しております。
 日本の戦略ですけれども、この図にありますのは、アメリカ以外の国がどういうサブシステム、検出器に興味がありますかという図をまとめたもので、日本はここの中で、Time-of-Flightと呼ばれている検出器と、あと右の、これは前方方向にある検出器なんですけれども、ゼロディグリーカロリーメーターという検出器と、あとデータ収集系ですね。ここを取っていこうと思っております。測定器を所有するということが非常に大事で、測定器を所有することで、その測定器を使ったデータ解析を主導する。このTime-of-Flightもゼロディグリーも、EICのサイエンスにとって非常に重要なディテクターであります。あと、このデータ収集系ですね。このデータ収集系は、非常に新しいデータ収集系、革新的なデータ収集系でありまして、AIベースでリアルタイムでデータの解析を行う、高度なデータ収集系になります。連続的にデータを読んで、AIもしくは自分で解析のプログラムを書いて、リアルタイムで解析を行うというものであります。これはその後のデータ解析、物理結果を出すところを主導的にやる上で非常に重要だと思っております。この3つのプロジェクトは、日本に基盤技術があります。物としてはシリコンのセンサーだったりするんですけれども、こういった日本の基盤技術、これを国際標準化するというのが非常に大事でありまして、それによって、例えばそれをRIBFとかJ-PARC等、いろんなところに導入して、相互乗り入れというのを実現させたいと思っております。量産開始は、ちなみに2026年となっております。
 あともう一つ重要なのは、やはり主要な役職を確保するということが、世界から日本のビジビリティーを上げるのに重要でありまして、私自身がエグゼクティブボードメンバーに入っておりまして、このTime-of-Flightとゼロディグリーという検出器においては、理研の後藤さんと、あと広島の八野さんが責任のあるポジションに就いております。
このデータ収集系は、Society5.0の「フィジカル空間とサイバー空間」の融合、それを加速器実験で大々的に実現するというものです。センサーからの情報をAIとかを使って物理情報に変換して、それをまた実験にフィードバックするというものですね。さらに、我々が良質なデータを出すことによって、例えば将来的には量子コンピューターの発展とかにもつながりますし、そこからさらに予測の科学というのを発展させることができて、それがまたさらに実験の新たなデータの見方とかにつながっていくので、非常にいい循環がEICを通じて生まれてきます。これはもちろん、RIBF、J-PARCとかBelleⅡとか日本にある実験のみならず、社会自体への波及効果も大きいので、日本が中心となって進める、さらにそれに秀でた人材を育成するという意味でも非常に大きな意義があると思います。
 もう一つ重要なのは、加速器実験というのは最新テクノロジーの固まりでありまして、測定器建設後も断続的に新しい技術開発を続けなければ、世界の技術進歩から取り残されてしまいます。国際共同実験は30年ぐらいは続くので、大体10年周期でいろんな検出器が高度化されます。その高度化を主導するための基礎開発というのも継続していかなければならない。そのときに中核となる基礎技術というのは、高精度に物を見る高度の半導体センサーの技術、高度の回路実装、高密度の回路の実装技術、3次元積層の技術、高速省電力データ転送技術、あとハードウエアアクセラレーション技術、これらを支える技術というのは実は日本にあります。こういう基礎技術に対して日本は本当に得意なんですけれども、大きく展開するところで海外に負けてしまうところがあります。こういったのを産学連携をプラットフォーム化して、色々な人がうまく参加して機動的にこれを動かせるような仕組みというのをつくっていきたいと思っております。こういったプラットフォームをつくることで、新しい国際研究というのをスピーディーにリードするような仕組みをつくっていきたいと思っております。
 加速器に関してですけれども、加速器の人と話すと必ず出てくるのはSuperKEKBです。SuperKEKBの技術の重要性というのは向こうのほうも認知しております。クラブ交差技術、シンクロトロン計算、バックグラウンド、あとビームパイプやコリメーターのデザインとか、そういったシミュレーションの技術と、こういったことをぜひ学びたいということを言っております。EICはAccelerator Collaborationの設立をしようとしておりまして、このキックオフミーティングが2024年5月に行われる予定であります。右側に、もう既にチャーターみたいなのがあるようでして、それはノンバインディングなので気軽に参加できます。9個のテーマ、右側にありますテーマに関して、例えば技術の意見交換、技術の継承、人材育成だとか、相互の加速器開発や相互の運用へのコミット、こういったことが視野に入っていると思うんですけれども、こういうコラボレーションも立ち上がっております。
 これを進めていく体制に関してですけれども、現在、理化学研究所とアカデミアのほうでいろいろと検討していることがありまして、まず1つは、理化学研究所の中でこのFundamental Quantum Scienceを推進する拠点をつくり、そこにEICを1つの柱として位置づけます。今概算要求を検討しております。アカデミアのほうは、EICを推進するクォーク・核物理研究機構というのを東京大学に設置しました。今年は大阪大学と大学間連携の概算要求を検討しておりまして、大学間連携によって、いろんな大学が得意なものを持ち寄って、研究力とか技術とかをネットワーク、組織につける、そういった新しいネットワーク型の拠点というのをつくりたいと思っています。それによって大型の国際共同研究を推進する体制というのをつくっていきます。こういったことを概算要求して、EICを支える国内の拠点というのを今つくろうとしております。
 人材育成に関しても、こういった大学間連携とか理研との連携ができれば、それが大学教育に波及するということで、組織横断的な大学研究だったり、トップレベルの研究者に講義してもらうとか、ネットワークがハブになって受入教官を配置するとか、学生に対する研究費等の支援とか、幅広く人材交流なり教育を深めることができると思っております。あとはスクールとかSummer studentとかです。あと人材の流動性に関しても、大学間連携とか理研との連携というのをつくることによって、各大学にいろんな大学のブランチがあったりとか、そういった人材交流というのも活性化することができますし、概算要求みたいなものをうまく使って、若手研究者のステップアップのポジションというのをつくっていきたい。あと、ブルックヘブンに長期派遣、これのサポートが非常に大事なので、RBRCを将来的にはうまく活用していきたいと思っております。理研の職員とか客員、所属学生だけではなく、コラボ全体を支えるようなものをつくっていきたいと思っております。
 科学コミュニティーの理解ということで、これをやっていかなきゃいけないと思っていますが、学会のシンポジウムを2021年にやったんですけれども、2024年、次のシンポジウムでEICのことをやっていきます。国内研究会も、2週間後に東京大学で、「EICで展開する新たな原子核・素粒子物理」をやりますし、技術に関してもデータ収集の国際ワークショップというのをこれはもう12回目になるんですけれども、次は日本で開催することを検討しております。コミュニティーの理解を得ていく努力を継続したいと思っております。
 最後、まとめになりますけれども、EICは、原子核3階層に飛躍的な新しい知見をもたらすということと、クオークとグルーオンのダイナミクスを理解することで、新しい量子技術やイノベーション創成につながる基礎学理の部分を深めていきたいと思っております。それだけじゃなくて、技術に関しても、データ収集系とか、最先端のセンサー、さらに積層技術とか、EICが鍵となって、新しい波及性の高い技術、それに関わる人材育成というのをやっていきたいと思っております。国際的な戦略という意味では、各国が予算をつけ始めている状況なので、日本もEICの成功を握る測定器やシステムをきちんと担当できるように、予算措置を受けながら、その後の物理解析、物理結果をきちんと出すような体制というのをつくっていこうと思っております。組織体制に関しては、今申しましたとおり、アカデミアの部分と理化学研究所のところで体制を今整えているところで、そこがコアとなって推進していくようなことを今検討しております。以上になります。

【永江座長】 どうもありがとうございました。ただいまの説明に関して、御意見・御質問等ありましたらどうぞ。三原さん、どうぞ。

【三原委員】 御説明ありがとうございます。すみません、私は素粒子の実験をしている者なので、なかなか原子核の見方が分からないところがあるので、ちょっと御説明いただきたいんですけど、電子をプローブとして原子核を見るということで、それをやることで陽子、原子核の内部構造が精密に測定できるという、これはほぼ理解できるんですが、例えば8ページにあったような陽子内の圧力という少しマクロな量の理解にどういうふうに、この電子をプローブとして原子核を見たときに、あるいは量子を見たときに、どういうふうにそれが実現できるのか。あるいは、さらには10ページにあるような中性子星の内部を理解するのに、どういうふうにデータを解析したらここにつながっていくのか、もう少しイメージがつかめるように説明いただけるとありがたいです。
 それともう一つの質問が、26ページで説明いただいたんですけれども、量子コンピューターの発展に貢献できるというのがまだちょっとイメージ湧かないんですけれども、もう少しそこを説明加えていただければ。

【郡司准教授】 EICで陽子の内部構造が分かるというのは、3次元的な構造が分かって、どういう運動量を持ったクオークとかグルーオンたちがどういう位置にいるのかというのが分かってくることになります。そうすると、マクロ的な見方で見ると、エネルギー・運動量テンソルみたいなものを書き下すことができるので、そういったところからこういった陽子内の圧力というのを引き出すことができるということになります。これ自身、非常にチャレンジングで、既にJラボのほうでもデータが出ていて、エラーバーは大きいんですけれども、例えば内側のほうは外側に広がっていく圧力、だけど、外のほうはネガティブなプレッシャーで閉じ込められているというようなものの兆候が見えていたりするので、そういったところは我々の直感とコンシステントなのかなと思っております。ポイントは、3次元でどういう運動量を持ったクオーク・グルーオンたちがどこにいてというような構造が分かることがやはり全てだと思っております。
 量子コンピューターのところは2つありまして、まず1つは、このQCDのアルゴリズムをどう量子コンピューターで実装するのかというのは、私も専門家ではないんですけれども、それはEICに限らず進んでいくことだと思います。技術的なことを言うと、量子コンピューターの例えば核スピンとかそういったものが時間とともにノイズによってどんどん壊されていくというのがやはり今抱えている問題になるわけなんですけれども、例えばEICとかで、環境に何らか分かっている量子を置いたときに、それが周りとどういう相互作用をして初期状態を変えていくのかとか、そういったところの基礎学理ですね。マスター方程式を確立するんですけれども、そういったことを数学的にきちんと確立するというのが、もっと長時間安定した量子コンピューターを実装するところで使えるだろうと見ております。

【永江座長】 三原先生、よろしいですか。

【三原委員】 はい。多分ほかの方も質問あると思うので、また後で質問するかもしれません。

【永江座長】 ほかにいかがでしょう。前田さん、どうぞ。

【前田委員】 ありがとうございます。私、低エネルギー原子核実験屋なので、ちょっと高エネルギーのことは不勉強で、教えていただきたいのですけれども、RHICでも、例えばEICの挑む問題として挙げられていた質量問題とかスピン問題とかやられていたと思いまして、皆さん、完全に分かったとはおっしゃらないのですけど、ある程度理解が進んだというふうに発表されているというのが私の理解です。それを今回エレクトロンでの散乱にすることによって、RHICでは、原子核散乱では分からなかった、突き詰められなかったどの部分がクリアになるというところですね。本当にEICのもともとのモチベーションに当たるところだと思うのですけど、そこを教えていただけたらというのと、あと追加で、ALICEのほうでも同様な問題に挑んでいると私、認識しているのですけど、ALICEとEICは並列で走ることになると思うので、そこで、EICの強みというか、何がクリアになると思っているのか教えていただけますか。

【郡司准教授】 EICになることによって、基本的には非常に小さいXの領域をクリアに見ることができるというのがEICのいいところで、やはり、小さいX、モーメンタムフラクションの小さいXを見るときに、もちろんエネルギーが高ければ見ることはできるんですけれども、低い運動量の粒子をつかまえなきゃいけないんですけれども、ハドロン・ハドロン衝突だと低い運動量の粒子はたくさん出てくるので、一体その起源は何なのかというところからきちんと理解しなきゃいけない。そういう意味で、クリーンには分からないんですね。だけど、EICだと、電子がクオークをたたいて、それが出てくるのをつかまえるので、非常にきれいに小さいXの領域の物理が展開できます。スピンの物理でグルーオンのコントリビューション、グルーオンの寄与というのはRHICでも大きな成果であるんですけれども、原子核全体のグルーオンを見ているわけではなくて、非常に限られた領域のグルーオンコントリビューションしか見られていないんです。それをEICにすると、圧倒的にXが小さいところまで見られるということになります。非常に限られた領域でしかこれまでRHICでは調べられていないんですけれども、見る反応がクリーンになるので、非常に小さいXからグルーオンのスピンとか、あと3次元構造が分かると、軌道角運動量のコントリビューションも分かるので、そういったところがスピン物理としては新しくなります。
 質量に関して、確かにRHICでも、LHCでも、質量の起源の探索というのは進んで、やっております。LHCでやっているのはqqbar、周りの環境を壊すことで質量が軽くなるのを見ようとしているんですけれども、EICのアプローチは、相補的なアプローチなんですけれども、陽子の中に着目してあげて、その陽子の中でクオークの持っているエネルギーの寄与、グルーオンの持っているエネルギーの寄与、あとグルーオンのトレースアノマリーと呼ばれている、グルーオン凝縮に基づく項とか、いろいろ分けて考えられます。qqbarがあることによって、陽子内のクォークやグルーオンのエネルギーのコントリビューションが決まるんだと思っております。qqbarの話と実はEICで明らかにする質量機構というのはどこかで多分つながると思うんですけれども、そうやって我々の物質の起源というのは理解されていくと思っております。
 あとLHCのほうでも、高密度のグルーオン状態というのを探すことはやっております。エネルギーが高いので、この左上の図のもっと小さいXのところをLHCでは探る。ある意味、カバーする領域は違ってきます。ただ、先ほど言いましたとおり、ハドロン・ハドロン衝突だと、非常に小さいXをつかまえるときに、小さい運動量を持ったものをつかまえないと、こういったグルーオンの非常にデンスな状態というのは見られないんですけれども、そういったところはやはりEICみたいな非常にきれいな反応というのがよく分かります。

【前田委員】 素人質問を少し追加させていただきたいのですけど、原子核のセンスでは、プローブとして電子使うか、陽子使うかだと、反応機構が違うので、そもそもエネルギーレンジだけじゃなくて、見えるもの自体が、フィジックスが違うみたいなことがあるんですけど、EICの場合は、ハドロン衝突からプローブを電子にすることで何か見えなくなるものみたいなものは特にないんですか。

【郡司准教授】 見えなくなるものは、基本的にエレクトロンを使ってしまうとグルーオンが直接見えないという問題はあるんですけど、でも、EICはルミノシティーが高いので、実はハイヤーオーダーのダイアグラムを使ってグルーオンを見ることというのもできるので、その辺のデメリットはEICではないです。ハドロン・ハドロン衝突だとグルーオンを直接たたいて見ることができるんですけれども、それがエレクトロンになってしまうとそれができなくて、結局、グルーオンのparton distribution functionという非常に大きな不定性がついていたんですけれども、でも、EICはルミノシティーが高いのでうまい反応を使うことによって、一応そういう弊害はなくなりますね。イベントレートが低いというのはあります。

【前田委員】 なるほど。分かりました。一旦ここで切ります。ほかの人に。

【郡司准教授】 すみません。ありがとうございます。

【前田委員】 ありがとうございます。

【永江座長】 ほかに御質問ありますか。どうでしょう。日髙さん、どうぞ。

【日髙委員】 すみません。ありがとうございます。Fundamental Quantum Science構想のところで、核スピンのコヒーレンスの起源と、外部環境との相関を考慮に入れた量子開放系の挙動等というのがあったと思うんですけど、先ほども何かちょっと質問あったかもしれないんですが、その辺もう少し詳しく教えてもらいたいんですが。

【郡司准教授】 簡単な例を言いますと、例えばEICみたいな、たくさんグルーオンがある中に、例えばクオークと反クオークを入れてみましょうと。散乱でたたき出すんですけれども、こういったのがどうやってデコヒーレンスするのかというところで、例えばグルーオンじゃなくてQGPの場合で考えると、今まではどうやっていたかというと、この2つの間のバインディングエナジーみたいなのがありますと。周りのグルーオンというのが大体温度が分かれば、これぐらいのエネルギーを持ったグルーオンたちがいるでしょう。それらが壊す散乱断面積はこれぐらいですというpQCDの計算があって、それによって、じゃあ、これぐらい壊されますね、というような議論だったんですけれども、そこに全く量子的な取扱いというのはなかったわけですね。やはり非常に重要なのは、例えばマスター方程式、Lindblad方程式みたいなのをきちんとつくってあげるということが非常に大事で、量子開放系をまさに記述するフレームワークですね。そういったところにもうちょっと量子的な周りの環境とシステムの相互作用、ブラウン運動とか熱揺らぎによる拡散とか散逸とかですけれども、そういったのを取り入れながらマスター方程式をきちんと構築するというところが多分一番大事だと思います。

【日髙委員】 ここでいう核スピンのコヒーレンスというのはどういうのを意味しているんですか。

【郡司准教授】 量子計算とかの。

【日髙委員】 これ、量子計算のときのコヒーレンスの問題ということでいいんですか。

【郡司准教授】 はい、そうですね。はい、そうです。13ページ目のはそうです。

【日髙委員】 分かりました。

【永江座長】 よろしいですか。

【日髙委員】 はい。

【永江座長】 ほかにございませんでしょうか。三輪さん、どうぞ。

【三輪委員】 よろしくお願いします。いろんな関連分野も含めて、連携を見ながらお話しされていて、非常に勉強になりました。ありがとうございます。
 それで、核融合とかフュージョンエネルギーへの貢献というようなところで、クオーク・グルーオンプラズマの熱化の機構と、あとレーザー核融合のダイナミクスというのが類似点があるというお話されていましたけれども、それぞれのところ、それぞれの分野で、例えばレーザー核融合を実現すると、これを実現する上で何が問題になっていて、それを具体的に原子核の知識を応用できるようなところはどういうところがあるのかみたいな、そういう具体的な連携できるようなところがあればお伺いしたいんですけれども。

【郡司准教授】 レーザー核融合に関しては、種があったときに、それがどうやって時空発展するのかという、ダイナミクスのところでは多分QGPのようなプラズマの時空発展というのが使えたり、計算手法が使えたりというのがあると思います。むしろ、その下のほうですね。クオーク・グルーオンプラズマの中での、例えば、ある粒子があったときにそれがプラズマを再熱化するとか、あと、先ほど言っていた量子揺らぎがクオーク・グルーオンプラズマの構造をつくるんですけれども、その量子揺らぎがどういう構造をつくって、どういう不安定性を生むのかと、核融合プラズマの安定性に通じます。プラズマの閉じ込めの安定性だとか、そういったところに効くんだと思います。やはりクオーク・グルーオンプラズマも完全に全てが熱分布しているわけではないので、そこに非平衡な成分とかもあるので、そういった平衡な成分と非平衡成分なものがどうやってシステムを安定化するのか、もしくは何か不安定性を生むのかだとか、そういった点は核融合プラズマの制御という点においても重要なんじゃないのかなと思います。レーザー核融合は私の宿題とさせてください。核融合プラズマにおいては、プラズマの安定性を生むために、逆を言うと、不安定性というのがどうやって生まれてそれがどうやって増長(アンプリファイ)されているのかという学理はクオーク・グルーオンプラズマの割とミクロなものと、それがマクロにどう伝搬するのかと、そういうところと非常にオーバーラップはあるんだと思っております。実際、クオーク・グルーオンプラズマではそういった、ジェットがどうエネルギーを落として、その落としたエネルギーがどうプラズマを熱化してという、これを同時に数値計算で解いていたりもするので、そういった技術というのも共有できるんじゃないのかなと思っております。

【三輪委員】 分かりました。すみません。あともう一つ、単純な物理的な質問なんですけれども、今回EICで陽子だけでなく原子核とも衝突させるということで、原子核中ではクオークの分布関数が変わってくるというか、いわゆるEMC効果というのが非常に重要なトピックスなのかなと思うんですけれども、EICに行くことで核子内のクオークがほかの原子核中に入ることによって起きる変化の様子であるとか、その起源に迫るような、そういうような方向性というのはあるのかという、もしあればちょっとお伺いしたいなというのが質問です。

【郡司准教授】 僕自身、面白いなというか興味を持っているのは、エレクトロンと偏極陽子と、あとエレクトロンと偏極重陽子、あと偏極ヘリウムで、偏極させると3次元構造が分かるので、例えば出てくるプロトンとかニュートロンとか、うまくアウトゴーイングなものをタグすることによって、例えばデューテロン中のニュートロンの分布、あとヘリウムの中のニュートロンの分布、こういったのをうまく引き出せれば、例えば2体相互作用とか3体相互作用だとかがうまく取り出せないかなと思っているんですけれども、これはもうEICが割とユニークで、そういったところをまずきちんとやはり理解していく。要するに、1核子系から2核子系、3核子系というのをきちんと精密に理解するというのが一番のスターティングポイントじゃないかなと思っております。そこは本当に原子核分野の人たちと協力しながら突き詰めていきたいサイエンスだと思っております。

【三輪委員】 分かりました。ありがとうございます。

【永江座長】 それじゃ、野中さん、手が挙がっているようですけど。

【野中委員】 どうもありがとうございます。詳しい説明、どうもありがとうございました。
 私のほうはちょっとお聞きしたいのが、物理というよりも、このEICに関するタイムスケールだとか、あと現在、世界的にもいろんな実験があると思うんですけれども、その中におけるEICの優位性だとか、もう既に現在、郡司さん、後藤さん、八野さんがEICで重要な地位を占めていらっしゃるというようになっているんですけれども、その中でさらにどういうところを狙っていくのかということと、私の印象ですと、EICに日本の人たちが目を向け出したのが割と最近な印象があるんです。その中で今からでもイニシアチブをどのぐらい取れるのかと、そういうところをちょっとお聞きしたいと思っています。

【郡司准教授】 タイムスケール的にいいますと、今はどういう状況かというと、各国がいよいよ予算取りをしている状況です。大きな加速器実験は、やはり予算がついたところが主導権を握るというのはどうしても出てきてしまうので、そういう意味でも、この段階できちんと、EICの中でも非常にコアとなる検出器、例えば1つは、セミインクルーシブなDIS、フレーバーディペンデンスを見るためのTime-of-Flightの検出器とか、あと、前方方向、さっき言ったプロトン、ニュートロンをタグするだとか、そのためのゼロディグリーカロリーメーターというのは非常に重要なんですけれども、そういったところをきちんと、できれば大きな予算を取って獲得していくというのが非常に重要です。いろんな実験がある中で、やはりクオークとグルーオンのダイナミクス、特にゲージボソンが、一番QCDの基本的な部分は、グルーオンが全ての構造をつくるわけなので、やはりそこをきちんと理解できるというのはEICが一番ではないかなと思います。もちろん見る自由度によっては、例えばストレンジネスは本当にJ-PARCが強いし、原子核はそれこそRIBFが御本尊ですしとか、そういうのはあるんですけれども、やはりクオークとグルーオンの系で見たときに、一番基本的な相互作用をクリアに押さえられるというのはEICと思います。高エネルギー重イオンもそうなんですけれども、ただ、時空発展したり、初期条件が分からないため、いろんな不定性というのがどうしても結果に残ってくるというのがあるので、だから、このコミュニティーを見ても、もちろんCERNでALICEとか、RHICとかやっている人たちもいますけど、結構大きな人たちが今EICに流れているというのが世界的な高エネルギー原子核分野の動向になります。
 日本は今、確かに、私がエグゼクティブボードメンバーで、後藤さんと八野さんがディテクターのほうのリーダーを執っていますけれども、足りないのはやはりフィジックスワーキンググループ、物理を解析する、物理を主導するところのコンビナーがいないというのが今、大問題といいますか、欠点だと思っております。ですけど、これまでRHICスピンをやられていたラルフさんとか、そういう人たちがいますので、やはりそういうところを次は狙っていきたい。物理のところを推進する人なり体制というのをやはりきちんとつくっていきたいと思います。
 あと何でしたっけ。

【野中委員】 だから、これからでも十分間に合う、逆に言えば。

【郡司准教授】 そうですね。これからでも全然間に合います。量産自身は2026年になって、今は検出器のベースラインを決めるためのいろんなスタディーが行われている段階で、もちろん日本も検出器のシミュレーションとかいろいろやって大きなコントリビューションしていますし、DAQのほうも大きなミーティングとかでいろいろ発表したりとかして、このDAQもJラボのほうからオファーがあったりで、これからどんどんそういう展開が広がっていく時期で、主導権はこれから取れる段階です。逆を言うと、やはりここ一、二年、二、三年のうちに物理とかも含めた体制をきちんとつくるというのが大事になってくると思います。

【野中委員】 ありがとうございます。

【永江座長】 はい、どうも。ほかに何かありますか。三原さん、どうぞ。

【三原委員】 ほかに質問される方がいなければ、もう少し聞かせてください。
 1つ目は、先ほど三輪さんが聞かれたことでもあるんですけれども、右上のページ番号でいうと17ページのフュージョンエネルギーへの貢献という、その上側は宿題とさせてくださいということなので、下側のほうについても、これはクオーク・グルーオンプラズマと、核融合プラズマ中の粒子の挙動との関連性みたいなことを言われていると思うんですけれども、これはEICの結果が直接的に核融合プラズマの研究にすごく大きな影響があるというよりは、原子核物理全体としてという意味で捉えてよろしいんでしょうか。

【郡司准教授】 はい。ここは原子核物理全体という意味で捉えてよいと思います。

【三原委員】 分かりました。もう一つの質問は、右上のページ番号でいうと、たしか25ページだったかな。今も御質問あった点ですけれども、真ん中のほうに、日本グループの多分貢献が期待されているところだと思うんですけれども、①②③のところで、上側の図を見ると、ほかの国も入っているようなグループになっていると思うんですけれども、これらの中でどれぐらい金銭的な負担、あるいは人的な、あるいは技術的な貢献というのを日本が担っているのか、ここについて、リーダーシップも含めて教えてください。

【郡司准教授】 ①番のTime-of-Flightに関しては、台湾と韓国の国旗が並んでおりますが、実際、今、韓国はこれから手を引いている状態で韓国はないです。台湾に関しては、メカニカルなところを台湾のところはやっていて、御本尊のセンサーだとかASICだとかその辺の実装とかラダーとかQAとかそういったものは全部日本でやる役割分担になっております。台湾は、サポートするカーボンフレームとか、その辺のことをやっております。
 ゼロディグリーカロリーメーターに関しては、これはクリスタルの部分とシリコンとタングステンとあとその後ろがハドロンカロリーメーターになっているんですけれども、シリコンとタングステンは、これはALICEで我々が培ってきたフォワードカロリーメーターの技術がそのまま生きます。クリスタルの部分は台湾で、シリコンとタングステンの部分は日本で、ハドロンカロリーメーターは韓国でという役割分担に今はなっております。全体で1セットとなっております。
 データ収集系に関しては、正直なところ、インド、台湾、フランスが挙がっていますけど、彼らは何もやっておりません。ここは今日本がSPADI-Allianceを中心として割と先導的にできているところです。ただ、ブルックヘブンにはブルックヘブンのDAQのこれまでの蓄積というのがあるので、そういうところとどうマッチしていけるのかというのはちょっとこれからの議論ですけれども、いずれにしてもこの3つのプロジェクトは日本なしには進まないプロジェクトだという位置づけになっておりますし、実験コラボレーターの中でもそういう認識になっております。

【三原委員】 その中で、後藤さんと。

【郡司准教授】 はい、八野さん。

【三原委員】 が、そこの代表として活躍されているという。

【郡司准教授】 はい、そうですね。

【三原委員】 分かりました。ありがとうございます。

【永江座長】 よろしいですか。

【三原委員】 大丈夫です。ありがとうございます。

【永江座長】 それでは、ほかに手が挙がって、成木さんから手が挙がっているみたいですが、どうぞ。

【成木委員】 こんにちは。

【郡司准教授】 こんにちは。

【成木委員】 まず、最初のサイエンスのところで3つ、マスとスピンと、それからQCDかな。原子核も含む量子多体系の理解というキーワードを挙げていただいたかなと思うんですが、グルーオンのコントリビューションというのがキーになってくるかなと思ったんですけど、2番目のクオークの結合問題というところは、もう少し具体的にはどういうサイエンスになりますでしょうか。

【郡司准教授】 クオークの結合問題というのは、どうやって核子の中にクオークが閉じ込められているかということで、ある意味、右のような、このような図を作ってみたいと思うわけなんですけれども、そういったときに、例えば、あるプロセスを使ってクオークとグルーオンの空間分布みたいなのを出したときに、これどおりに従うのであれば、グルーオンの例えば分布というのはもっとクオークに比べて内側に寄っていたりだとか、そういうふうにするんですけれども、そういうのを見たり、あとはクオークとグルーオンの圧力ですね。圧力分布を見ることによって、外側はネガティブなプレッシャーというか、閉じ込めの力を受けているわけなんですけれども、こういうのをきちんと理解しましょうというセンスで書かせていただきました。

【成木委員】 分布関数のところでしょうか。

【郡司准教授】 はい、そうですね。

【成木委員】 あと、それぞれなんですけど、EICに行ったときに、今までもある程度の知見はあると思うんですけど、どのぐらい精度が上がる。例えばグルーオンスピンに対するコントリビューションは、ほとんど分かっていないと言っていいと思うんですけれども、定量的にどのぐらいのことが分かるというようなことは。

【郡司准教授】 予想される達成精度、39ページの右上にある図で、今分かっているのはこの青い領域で、プロトンの中のクオークのコントリビューションは昔の実験で分かっていて、グルーオンのスピンというのはRHICで分かったんですけれども、でも、RHICで分かったのは限られたXで、それを外まで外装すると、今こういう青ぐらい広がっているんですけれども、この赤とか黄色の精度になると理解しております。マスに関しては、トレースアノマリーの寄与は、これまで、過去の実験では10%ぐらい誤差があるんですけれども、それが1%ぐらいの誤差になるという見通しを立てております。

【成木委員】 最後なんですけど、ちょっとサイエンスと違うんですけど、EIC、アメリカの大型将来計画で、特に日本に期待されることですね。恐らく肌身で感じておられるのではないかなと思うんですけど、予算的なコントリビューションというより、例えば技術力あるいは人材というようなところの期待が大きいのかなと想像しているんですが、その辺はいかがですか。

【郡司准教授】 両方ですね。

【成木委員】 両方ですか。

【郡司准教授】 はい。両方というのは、基本的に検出器で今我々がつくろうとしているTime-of-Flightとかゼロディグリーとか、特にTime-of-Flightですね。一番いい性能をつくっているセンサーは浜松なので、やはり日本に対する期待が大きいというのが1つと、あとDAQのストリーミングに関してもそうですね。もちろんサイエンスに関してもやはりたくさん人が来てほしいというのは、それはもちろん、前々からずっと長いこと言われていることですね。

【成木委員】 分かりました。

【永江座長】 小関さんから手が挙がっております。

【小関委員】 どうもありがとうございます。郡司さんが加速器技術に関してメンションされましたので、ちょっとコメントさせていただきたいと思います。KEKBの加速器のメンバーには、加速器に関わる協力依頼というのはぽつぽつ来るんです。そういう意味では、特にSuperKEKBと共通する課題が幾つか、郡司さんのスライドにあるように、クリティカルなものがありますので協力要請というのは来ます。具体的な案件としては、ここに書いてありますけど、クラブクロッシング、つまりクラブ空洞ですね。これはKEKBが世界で初めて実現した技術ですけれども、それから光モニター、大電流電子ストレージリングの不安定性を抑制するフィードバック、そういったところで問合せがあります。スライドにも御紹介がありますけど、加速器の国際会議IPAC24でEICコラボレーションのキックオフミーティングやりたいという連絡も何人かもらっていまして、誰かKEKBから参加することになるかと思います。もちろん情報交換とかワークショップなどの議論は協力したいと思っておりますけれども、今の段階では、実働というか、我々がどの程度手を動かすことができるかは、ケース・バイ・ケースで慎重に判断していく必要があると考えています。KEKBの技術と重なるというか、オーバーラップするところは確かにあるとは思います。以上、コメントです。

【郡司准教授】 ありがとうございます。私としては、むしろブルックヘブンとかJラボの側がきちんと、可能であればSuperKEKBの実際運用をやりながらいろいろノウハウを学んでいくというプロセスが大事かなと思っているので、そういう方向も含めて、今後またいろいろ議論させていただければと思います。

【小関委員】 分かりました。

【永江座長】 ほかに何かありますでしょうか。日髙先生、どうぞ。

【日髙委員】 すみません。EIC、今後、非常に高エネルギー原子核の物理で重要になってくるものだと思うんですけれども、主に実験のことを話されたと、関連することを話していただいたと思うんですが、理論と一緒に進めていくのは非常に大事だと思うので、特に若手育成が大事になってくると思っています。

【郡司准教授】 はい、そのとおりです。

【日髙委員】 その点に関して、後ろのほうで若手育成の話があったと思いますが、この辺は理論も一緒にやっていけるような感じの枠組みになるんでしょうか。

【郡司准教授】 はい、そうです。今、このEICをどうやって体制を組んでやっていこうかというところで、例えば東大の中だったり理化学研究所と一緒に話をしております。そこの中で、EICを支える理論部隊というのがやはり日本はそんなに大きくないので、そういう人たちをきちんと確保するというか、そういう人たちをきちんと別に海外の研究者でもいいので、このEICを、サイエンスをドライブする理論の人たちのポストを理研の中だったり東大にもつくるとか、そういったことはいろいろ考えております。おっしゃるとおりで、理論のほうも活性化するように、ポストとか人材育成というのも進めていくつもりでいます。

【日髙委員】 ありがとうございます。

【永江座長】 北野さんから何かありますでしょうか。

【北野科学官】 すみません。私も発言いいんですかね。すみません。聞きたいことが出てきたので、ちょっと聞いてみたいんですけど、私、素粒子なので、あまり原子核のことは分からないんですけれども、原子核で面白いのは、QCDが物質をつくっていくところをどう理解するかという学問だと思って、かつ難しい物質の相互作用をどうエッセンスを捉えていくかというところが面白いんだと思うんですけれども、EICでクオークとかグルーオンを見るとか、陽子の中身を見ると言われると、その面白いところじゃなくて、QCDを見るだけなんじゃないかという気がしてくるんですけど、ちょっといちゃもんをつけているみたいに聞こえますが、その辺をもうちょっと説明してくれたらうれしいなというのと、あと、私、核の構造のほうがやはりちょっと面白いと思っていまして、そのとき、電子をプローブとして使ったことは恐らくないと思うんですけれども、核構造に関して電子を使って新しくできることとかないのかなというのを聞いてみたいと思いました。すみません。

【郡司准教授】 おっしゃるとおり、原子核物理の面白いところは、分かっているラグランジアンからどうやって我々の創発的な世界が理解できるのかというところで、確かにやっていることは、核子構造の中も、いろんな変数を使ってディファレンシャルに見ると、いろんな状態があるので、ある意味我々の創発性をぎゅっと押し込めたような世界でもあります。そういったのがどうやってスピンとか陽子の構造をつくるのかという、ある意味ファンダメンタルでもあるんですけど、ある意味創発的な世界でもあるので、非常に私自身は面白いんじゃないかと思います。
 あと、例えば原子核の核図表なんかを眺めてみると、ああいうのも非常に創発性が生まれている顕著な例だと思うんですよね。例えば中性子過剰になったときに原子核というのはどういう振る舞いがあって、陽子過剰に行ったときにどういうものがあって、例えば形が変わったりとか、クオークとグルーオンの基礎的なダイナミクスこそがやはりそれらの創発性を生むかもしれないと考えれば、一番ファンダメンタルからサイエンスはがっと広がるというところは非常に面白い、魅力だと思います。
 あとは、電子をプローブとするところ。

【北野科学官】 そうですね、はい。例えば、原子核の中でも例えば中性子の分布とか、そういうのは電子で調べたことは、というか、調べられないですね、普通は。

【郡司准教授】 でも、低いエネルギー、理化学研究所にもSCRITという加速器があったり、電子を基本的に当てて不安定核とかに当てて、不安定核の中の電荷の分布。中性子じゃない、電荷の分布を見るというのは確かにありますね。中性子自身は、そうですね、エキスパートの方が。

【北野科学官】 ウィークインタラクションがあるから、そういうのもできるのかなとちょっと思ったり。

【郡司准教授】 EICでは、結局、そこの中のクオークをたたくので、できますね。陽子の分布、そうですね。例えばデューテロンなんかと、偏極デューテロンとエレクトロンをやって、フォワードにプロトンをタグすると、それはニュートロンの構造に迫ることができます。

【北野科学官】 ありがとうございます。もう一個、ついでに聞いてみたいんですが、Fundamental Quantum Scienceというのと、このEICの測定器、加速器への貢献というのは、これは独立のものでしょうか。何かちょっとつながりが分からなかったんですけれども。

【郡司准教授】 Fundamental Quantum Science自身と実験の測定器とかは、今からつくり上げようとする検出器は割とちょっと離れているんですけれども、ただ、Fundamental Quantum Scienceで例えば新しい量子デバイスとか新しい量子技術というのは、20年後、30年後の実験に非常に生きてくる可能性はあると思います。あと加速器のほうに……。

【北野科学官】 これはまたちょっと、もっと将来に向けた構想であって。

【郡司准教授】 そうですね。このFundamental Quantum Scienceでまず私たちがやりたいのは、基礎学理をきちんとつくると。量子開放系とかの基礎学理をきちんとつくる、その下支えをしっかりつくった上で、それがどう技術に発展するかというのはまたその次のステップであるんですけれども、その出口としてその技術が次の加速器実験に生かされるというのはあると思っております。

【永江座長】 よろしいですか。

【北野科学官】 ありがとうございます。

【永江座長】 あと、前田さん、何かありますか。

【前田委員】 ありがとうございます。EICに日本として参加するというか、エンドースしていくというところに関して、もちろん研究者としては、どこの国のミッションであったとしても科学の発展をサポートしたいというのがある一方で、この有識者会議としてはやはり、日本へのリターンというか、日本として得られるものみたいな視点も重要かなと思うので、その観点で2点お聞きしたいです。
 1点目は、EICそのものの中で、先ほど検出器を日本が主導していくものが何個か、TOFとかゼロディグリーとかをおっしゃっていたんですけど、ちょっと私、低エネルギーの実験をやっているので、その辺の成果の分配というか、言ってしまえば、例えばペーパーのメインコントリビューターみたいなものの考え方みたいのを、高エネルギーのセンスを知らないので伺いたいんですけれども、米国サイドが建設するであろう検出器みたいなのは恐らくほかにもあって、そこで、多分おいしいところを彼らも取りたいはずですよね。それがある一方で、こういう日本主導の検出器がありますという中で、こういう体制で、検出器の開発自体からも当然何本も論文は出ると思うのですけど、先ほど郡司さんが説明していただいたような物理ですね、検出器さえ押さえれば日本の人がフィジックスの成果も取れるものなのか、その辺ちょっと私がセンスがないので教えていただきたい。日本の技術とかマンパワーとかの提供に見合うものが得られるのかなというちょっと現金なことをお伺いしたい。
 あともう一点は、参画する意義として、初めのほうに挙げられていたように、私、やっぱり、いろいろな原子核分野及びそれを超えたいろいろな分野のつながりと、あと、そういうものに日本が関わっているということを若い世代に見せることの日本としての意義みたいなのはすごく大きいとは思うんです。まさに自分の大学の学生にも、こういうものを日本が主導していて、あなたも関われるチャンスがあるみたいなことを話せるのはすごく大きいと、いいことだと思ってはいるのですけれども、そういうビッグビジョンまで多分郡司さんが全部テークケアするというのはちょっと無謀なんじゃないかと勝手ながら思うんですけれども、大きなビジョンとして、日本全体の教育・研究全体に対する影響みたいなものはどこでケアされるというか、このFundamental Quantum Science構想という中で郡司さんとは別の方が何かアレンジしていくものなのか、その辺の具体的なイメージをちょっと教えていただけるとありがたいんですが。

【郡司准教授】 高エネルギー原子核業界は、検出器をつくること自身、ビジビリティーが非常に高く見える。でも、ペーパーになった時点では、ペーパーには全ての人が載るので、あまり、低エネルギーに比べるとクレジットというのは確かに見えにくいところはあります。検出器を自分たちで握っていることの重要性は、一番最速で結果が出せます。結果が出せるというのもありますし、逆を言うと、データ解析だけやっていれば人が育つかというと、やはりきちんとハードウエアも理解しないことには人は育たないので、そういう意味でもやはり検出器を握っておくというのは非常に大事になってきます。
 もう一個の後半は、これ自身はやはり核物理全体で関わっていくプロジェクトであってほしいと僕は思っているので、その1つのきっかけがこれから東大を中核としてつくっていく、新しい国際量子物理ネットワークだと思っております。ここに、高エネルギーだけではなくて、低エネルギーとか、もちろんJ-PARCの物理だとか、あと、もしくは核融合の物理だとか、技術に秀でたグループだとか、やはりこういうところにいろんなものをぶら下げて、こういった基礎量子科学というのを分野全体でやっていくというものをここでつくりたいと思っております。

【前田委員】 ちなみに、それはどのくらいまで。例えば原子核でいうと、低エネルギー、ハドロン、あとDAQ検出器みたいなものに対して、コンタクトパーソンというか、コアになってくれそうな人が見つかっていると期待するのですけど、関連分野とかまで、そういうのに興味を持って参画してくれそうみたいな人の目星はついているんですか。

【郡司准教授】 はい、ついています。まだまだ議論していかなきゃいけないところはありますけど、将来的にこういう構想を持って今後やっていきたいというのはいろんな方に話はしておりますので、それはただいま現在進行形でつくっております。

【前田委員】 分かりました。期待しております。ありがとうございました。

【郡司准教授】 前田さんも入ってください。

【前田委員】 ぜひお願いします。

【永江座長】 ほかにどなたかありますか。だんだん時間が。三輪さん、何かありますか。

【三輪委員】 すみません。DAQのところと、あと物理のところを少しだけ質問させていただきたいのですけれども、郡司さんはStreaming DAQを結構中心でやられていて、それであと、DAQに関してもAIを入れてデータ収集を取れるようにできないかということをおっしゃっていましたけれども、すごく新しい、今までになかった発想で、新しいことをされようとしているんだなと思ったんですけれども、実際にAIをDAQの中、データ収集の中で入れていくというところに関して、実現できそうなのかであるとか、あと、もし越えなければならない壁というか、マイルストーンみたいなのがあれば教えていただきたいなと思いました。まず1点目です。

【郡司准教授】 Jラボのほうとかでは、例えば、データ解析ではないんですけれども、検出器の環境ですね。検出器の環境をピックアップして、オンラインのキャリブレーションのほうにAIを入れているというのはあるので、それは、でも、リアルタイムにデータが補正されていくので、実際、技術的に大きな障壁があるというのは多分そんなにないと思っております。これはEICだからこそできるものであって、例えば高エネルギー重イオンとかみたいな、ぐしゃっとして、ばっとたくさん出てくるようなものはなかなか難しいと思うんですけれども、レートが高くて、ちょろちょろ反応を起こして、その反応が非常に特殊という、そこを生かしてこういったことが実装できるんじゃないかなと思っております。だから、非常にいい環境にあると思っております。特に障壁というのは、すぐには出てこないというか、FPGAに載るんだとか、GPUに載るとか、その辺の規模感、そういう細かなR&Dというのはありますけれども、そんなに、そこまで難しくないんじゃないかなと思っています。

【三輪委員】 分かりました。大体、EICの環境だったら、まさに現実的な話になっているということですね。

【郡司准教授】 はい。

【三輪委員】 分かりました。あともう一つ、物理のほうなんですけれども、三原さんが最初に少し質問したのとも関係しますけれども、中性子星の中をEICはエネルギーの関数で上げていってパートンの分布を増やしていくというと、あと、実際の中性子星のほうは密度の関数でという、そこの対比をされていましたけれども、実際にどうなんですか。EICで見るときには、かなり高エネルギーの反応を使って、xの小さなグルーオンであるとかqqbarとかを見るんだと思うんです。そうすると、基本的には摂動、また摂動計算が可能なエネルギー領域での計算が主になるのかなと思うんですけれども、一方で、実際に中性子星の中に関して言うと、qqbarのクオークというよりかは、自在するクオークが凝縮していくというようなピクチャーになっていくと思うんですけれども、その辺りのもう少し関係性みたいなのを教えていただけるとありがたいんですけれども。

【郡司准教授】 確かに、厳密に言うと、三輪さんのおっしゃったとおり、クオークの世界とqqbarの世界と、あと中性子星の中で重要なのは、やはり三輪さんがやっていらっしゃるようなストレンジネスの自由度ですよね。そういったところはEICでは確かに、そこは大きな違いというか、逆に、そこはお互い得意なところがあって非常にいいんだと思うんですけれども、でも、例えばEICで、例えばクオークと反クオークになりますけど、真空からたたかれたクオークと反クオークが、例えばBEC的なのか、BCS的なのかとか、そういったことというのは多分検討できると思うんですよね。そういったような話というのが中性子星の中でもつながってくると思っております。

【三輪委員】 すみません。クォーククォークペアの情報とか、そういうあたりの関係の情報が引き出してくれるんじゃないかと、そういう感じですかね。

【郡司准教授】 はい、そうです。あと、例えばケーオンの内部構造とかパイオンの内部構造とかも調べることができるので、あとは多分……。

【三輪委員】 最初のページに書いてあったところでしたっけ。

【郡司准教授】 そうですね、はい。

【三輪委員】 質量のところで、π、Kに関しても質量構造が分かるというふうに書いてあるところですかね。

【郡司准教授】 そうですね、はい。内部構造が分かると言われていますし、あと、次、2週間後の研究会で多分話があると思うんですけれども、例えばストレンジネスを含んだ、バリオンの構造も何か引き出せないか。これは僕もちょっといろんな人にお願いしているところもあるんですけれども、そういうところも実はEICで、どこまで分かるのかはちょっと精査しなきゃいけないんですけれども、そういうところも実は分かってくると、もうちょっとよくつながってくるのかなという気がします。もうちょっとこちらで議論をしっかりしたいと思います。

【三輪委員】 ありがとうございます。

【永江座長】 よろしいでしょうか。
 どうもありがとうございました。終了の時間が近づいてきましたので、本議題はここまでとしたいと思います。もし追加の御意見がございましたら、メールで事務局までお送りください。次回の会議では、いただいた御意見を踏まえて、事務局が作成する中間報告の骨子案について議論いただく予定です。
 以上で本日の議題は終わりとなりますが、先生方から何か御発言がございましたら、お願いいたします。

【郡司准教授】 1ついいですか。我々、向こうに行って実験をやるわけなんですけれども、日本は先ほども言いましたけれども、RIBFがあったりJ-PARCがあったりで、EICが割と幅広いサイエンスをやれるからこそ、多分そこからいろんなサイエンスのブランチが広がって、じゃあ、この辺は一緒にJ-PARCで実験をやろうよとか、この辺はRIBFで実験やろうよということで、向こうに行くだけじゃなくて、向こうから人を呼び込むようなことというのも絶対可能になってくると思うので、個人的にはそういうところも大切にしながら、このプロジェクトを進めていきたいと思っております。

【永江座長】 事務局から。

【西山課長】 すみません。文部科学省の基礎・基盤研究課長をしています西山です。本日、御議論ありがとうございました。
 本日の御議論を通して、非常に重要な御指摘等も多々いただいたと思っております。文部科学省がこの有識者会議を設置しましたのは、冒頭、村松室長のほうからも説明がありましたとおり、米国で進められているEIC計画について、日本が参画する高い意義があるかどうかということをまずきちんと整理した上で、どのように日本として対応すべきかということを御検討いただくものですので、もちろんこれ、EIC計画への参画ありきという検討では文科省としては考えていないということです。まず、きちんと、EIC計画に参画する場合、どういう日本としての高い意義があるのかというのを整理したいと思っています。それはすなわち、EIC計画に参画すること自体が目的化するのだと、これは米国の計画に日本が協力するだけとも見られますので、そうではなくて、EIC計画を活用して日本発、日本から新しいアカデミックドメイン、サイエンスドメインをつくれるのかどうかというところがポイントなのではないかと思っています。ですので、これはやはり、原子核物理の分野のみに止まらず、原子核物理の分野が中心になるわけですが、それをもう少し幅広い視点で捉えて、どのような他の学問分野であったりとか社会への大きな波及、イノベーションをもたらし得るような成果が考えられるのかと、そういう視点で検討していければと思っています。
 そう意味では2つ重要なことがあるかと思っていまして、1つは、優秀な若手の研究者、または博士の学生さん、これらの研究者もしくは研究者の卵の方がわくわくして、この分野に進んで参入したい、この分野で一生かけて研究したいと思えるような、そういう学問分野になり得るのかどうかということをやはりきちんと議論すべきだと思っています。
 2つ目は、繰り返しになりますが、これ、要するに、ある意味狭い原子核物理の分野に止まる話ではないと思っています。量子力学、量子科学等が誕生してから1世紀弱経つわけですけれども、この間やはり物理の分野は非常に細分化・専門化してきたんだと思います。これらの細分化・専門化した学問をいま一度幅広い分野、視点で捉え直して、学問的な発展を期すには、どのような研究体制なり、日本全体の実効的な体制が組めるのかどうかというところがポイントだと思っていまして、そこら辺、例えば量子科学の関係者もしくはプラズマ、核融合等の関係者ともよく議論した上で、実効的な研究体制が本当にできるのであれば高い意義があると思いますし、そういう観点からの議論をいただければと思っております。
 本日はありがとうございます。

【永江座長】 どうもありがとうございました。ほかに何かございますでしょうか。よろしいですか。
 それでは、本日の議事は終了となります。最後に事務局のほうから連絡事項があればお願いいたします。

【細野専門官】 事務局でございます。次回の会議は6月14日を予定しております。本日の資料は、会議冒頭に申し上げましたとおり、後日、文部科学省のウェブサイトに公開いたします。また、本日の会議の議事録につきましても、委員の皆様に御確認いただいた後、文科省ウェブサイトに掲載させていただきます。以上でございます。

【永江座長】 ありがとうございました。それでは、本日の会議を終了いたします。



―― 了 ――